ついにリーガ初先発
第4節のアスレティック・ビルバオ戦ではPKを奪取、前節のヘタフェ戦ではアシストを記録するなど、試合を重ねるごとにピッチ上で結果を残し続けているMF久保建英。徐々に指揮官、そしてチームメイトからの信頼も厚くなっているといっても過言ではなく、マジョルカというクラブの中でも際立つ存在となってきた。
そんな日本人MFが所属するマジョルカは現地時間25日、リーガ・エスパニョーラ第6節で本拠エスタディ・デ・ソン・モイスに強敵・アトレティコ・マドリーを迎えている。久保は当初、MFサルヴァ・セビージャのコンディションの具合で先発入りの可能性と報じられていたが、結果的には背番号8の状態とは関係なくスタメン入りを果たした。ご存知の通り、これが18歳の若武者にとってプリメーラ・ディビシオンでの初先発となった。
久保はこれまでにも務めてきた右サイドハーフの位置でスタート。立ち上がりから積極的にボールを受けては縦への突破を図るなど、入りの良さは明らかだった。
しかし、チームはやはり序盤からアトレティコに押し込まれる。サイドから中央へスムーズにボールを回し、選手の距離感をコンパクトに保ちながらダイレクトのパスを多く入れテンポよく攻撃を組み立てるアウェイチームに対し、マジョルカの守備の重心はかなり後ろに傾いた。4分にはゴール前での混戦から最後はMFサウール・ニゲスに際どいシュートを放たれるなど、試合前の予想通りホームチームは相手の圧力に押された。
こうなると、なかなか久保の攻撃面での良さは発揮されない。当然、攻められているチームにはカウンターのチャンスが巡ってくるが、相手はあのアトレティコ。守備陣はさすがの集中力を誇っており、マジョルカの人数をかけないスピーディーな攻めにも難なく対応できていた。久保も、序盤はDFフェリペのカバーリングに手を焼き、なかなかサイドを崩すことができなかった。
久保は何度か内側のエリアでもプレーしたが、そこではMFコケらが睨みをきかせている。わずかなスペースへの侵入も許さず、背番号26の持ち味を確実に消してきたのだ。
マジョルカは26分にFWジエゴ・コスタに得点を許し、1点のビハインドを背負った。ここからは、当然ながら攻めに出なければならない。そんな中迎えた後半。マジョルカはいきなりアトレティコを脅かす。その中心となっていたのは、久保だった。
アトレティコの脅威に
46分、セビージャとパスを交換しながら中央を突破した久保が右サイドに開いていたMFダニ・ロドリゲスへパス。背番号26はそのまま直進し、ペナルティエリア内へ侵入すると、その動きを見逃さなかったD・ロドリゲスがリターンパスを送る。これを受けた久保が右足でシュートを放った。しかしこれは、カバーに入ったDFステファン・サビッチに当たりポストへ。そして最後はDFサンティアゴ・アリアスにクリアされたためゴールとはならなかった。
ただ、これまでバレンシア戦、アスレティック・ビルバオ戦、ヘタフェ戦とすべてのゲームで久保のプレーをチェックしてきたが、恐らくこのシーンが最も味方と呼吸を合わせて崩し切れたものだった。ゴールという最高の結果にはつながらなかったが、アトレティコという強敵相手に見せた“形”は必ず今後にも生きてくるはずだ。
また、49分にはGKヤン・オブラクのパスミスを拾った久保がドリブルで相手陣内深い位置まで侵入。最後は左足でシュートを放った。果たしてこの選択が最善だったかどうかはわからないが、積極性、相手に与えたインパクトを考えれば十分なプレーであった。
と、後半は立ち上がりからアトレティコに対し攻勢に出ていたマジョルカであったが、64分にFWジョアン・フェリックスに得点を許し0-2とリードを広げられる苦しい展開に追い込まれた。しかし、結果論にはなってしまうが最終的にこれが久保の特徴が生きる上でのキッカケとなった。
2点目が入った直後、ディエゴ・シメオネ監督はFWアルバロ・モラタを投入するが、同選手はそのわずか8分後、DFシスコ・カンポスらと小競り合いを起こし、一気にイエローカード2枚を受け退場へ。一人少なくなったアトレティコはその後にMFマルコス・ジョレンテを投入し、守りに徹したのである。
こうなると必然的にマジョルカは攻めに出やすくなる。そこで中心となったのはまたも久保だった。チーム全体が右サイドを起点として攻撃を組み立てるようになり、背番号26にはボールが集まる。その際の味方のサポートなどは前回のヘタフェ戦からあまり改善が見られず未だ不十分だったが、個での突破力やボールキープ力はやはりずば抜けている。アトレティコも徐々に警戒するようになり、久保に対しては2枚でマークに付くシーンもあった。
また、サイドでMFトーマス・パルティと対峙した際には相手の重心を自身の利き足の方へと傾けてから反対の右側への突破を図り、クロスを上げた。ガーナ人MFの能力も決して低くはないが、それを上回り最後の最後まで仕事をやり続けることができるのは久保の魅力である。
久保が今後の中心に?
しかし、チームは得点を奪うことができず0-2で敗北。リーグ戦では5試合未勝利となっており、順位も17位と降格圏がすぐそこまで迫っている。そろそろ勝ち点が欲しいところだ。
さて、久保個人のパフォーマンスにフォーカスすれば、間違いなくマジョルカで最も輝きを放っていると言える。未だゴールを奪うことができていないとはいえ、アトレティコ戦で魅せた技術力と質は申し分なかった。強豪相手にこうしたプレーを見せることができたのは、本人にとっても大きな収穫となったはずだ。
データサイト『Who Scored』によるとマジョルカはこの日、右サイドからの攻めが最多となる全体のおよそ35%を占めたという。また、各選手の平均ポジションを見ても、最も高い位置を取っていたのは久保というデータが出ている。守備にも少なからず貢献した背番号26がこの結果を残すということは、やはり攻撃の中心になっていたということだ。
ただ、ゴールという結果は早く欲しいところだ。この日も19歳のフェリックス、久保のライバルであるFWロドリゴ・ゴエスもレアル・マドリーで得点を奪った。若手の勢いは出ている。日本人MFもその波に乗りたいところだろう。
ただ、やはりチーム全体の課題が多い。インテンシティの高い相手に対してはどうしても重心が低くなってしまい、ズルズルとラインが下がっては失点を招いている。守備ではボールホルダーに対し十分なプレスを与えることができず、フリーな選手を作ってしまうことも多い。この辺りの改善は急務だ。
攻撃面に関しては、左サイドが機能していないのが最大の難点。この日も同サイドを起点としたシュートチャンスが0%となっているなど、明らかなウィークポイントになっている。ビセンテ・モレノ監督の修正が必要だ。
その中でも久保の高パフォーマンスはやはり唯一ともいえるマジョルカの好材料だ。今後は同選手を中心としたチーム作りを考えても良いのかもしれない。それだけのインパクトを久保は残したのだから。
(文:小澤祐作)
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