欧州王者同士の対決
ユルゲン・クロップがリバプールの指揮官に就任して150試合目のリーグ戦は、今季2度目の“欧州王者”対決となった。
直近9回の対戦では、3勝5分1敗でリバプールに軍配が上がっている。今季はUEFAスーパーカップで対戦しており、120分を戦って決着がつかずにPK戦に突入。チェルシー5人目・エイブラハムが放ったシュートをGKアドリアンが防ぎ、リバプールがPK戦を制している。
直前のミッドウィークに行われたUEFAチャンピオンズリーグ・グループリーグ第1節では、両チームともに黒星発進。バレンシアに敗れたチェルシーは直近2試合で3バックを採用したが、この試合では4バックに戻している。およそ1ヶ月ぶりにエンゴロ・カンテが復帰し、バレンシア戦で負傷して出場が危ぶまれていたメイソン・マウントもスターティングラインナップに名を連ねた。
ここまで5戦全勝のリバプールを相手に、チェルシーは試合を通じて主導権を握っていたと言っていいだろう。ボール保持率54.9%、シュート本数は13本(リバプールは6本)と相手を上回っていた。特に試合終盤はチェルシーが攻勢に回り、リバプールは猛攻を凌ぐ展開が続いていた。
しかし、チェルシーは想定外の交代が誤算となった。代表ウィーク中に負傷したエメルソンは、復帰戦となったこの試合で15分に交代。さらに味方との接触で負傷したアンドレアス・クリステンセンも42分に退いている。この2枚の交代は後半の戦いに響いた。
最終的にはスコアを2-1としたリバプールが、昨季から続くリーグ戦の連勝を15に伸ばしている。試合内容がスコアに結びつかなかった理由はどこにあるのだろうか。
2つのセットプレーから生まれた得点
リバプールは14分、ファビーニョの楔のパスを受けたサディオ・マネが倒されてFKを獲得。ゴール正面で距離が短く、直接狙うには難しい距離。これをモハメド・サラーがフリックし、トレント・アレクサンダー=アーノルドが放った強烈なシュートが、ゴールネットへと突き刺さった。
さらに、リバプールは30分に左サイドでFKを獲得すると、両SBがキッカーに名乗りを上げる。アレクサンダー=アーノルドがボールに触り、アンドリュー・ロバートソンがクロスを上げると、フリーになったロベルト・フィルミーノがヘディングシュートを放ち、2点目を手にした。
2点を追うチェルシーに希望が見えたのが71分。アタッキングサードでカンテがボールを持つと、細かいタッチでするするとバイタルエリアに侵入して右足を振り抜く。すると、カンテに寄せる相手DFの間を抜けたボールがゴールへと吸い込まれて点差を1点に縮めた。
リバプールは71分にマネに代えて中盤にジェームズ・ミルナーを投入。さらには、後半アディショナルタイムにはサラーを下げて、ジョー・ゴメスを入れて5バックにして守備を固めた。
1点リードの試合終盤ということを加味しても、クロップが5バックにして守備を固めることは珍しい。自らのスタイルを捨ててでも勝利を優先して、今季2試合目となったトップ6との対戦で、アーセナル戦に続き勝利を収めている。
アーノルドという「飛び道具」
勝敗を分けたのは両チームの決定力だろう。チェルシーは前半からいくつもあった決定機をトミー・エイブラハムが決められず、VARによる助言によりアスピリクエタのゴールも取り消された。後半に入ってもミチ・バチュアイやマウントにチャンスが生まれたものの、ゴールはならず。得点はカンテの個人技による1点に留まった。
反対に、リバプールは流れの中で決定機は多くなかったものの、セットプレーから2つのゴールが生まれた。その「飛び道具」となっているのはアレクサンダー=アーノルド。20歳にして指揮官の絶大なる信頼を得ている右SBは、ここまでリーグ戦1得点2アシストをマークしている。
アレクサンダー=アーノルドのFKはその多彩さが魅力だ。鋭い回転は縦にも横にも自在にかけることができ、この日のゴールはストレートに近い軌道を描いた。今季は主にアウトスイングのCKを担当するが、鋭く曲がるボールや、ストレートボールを使い分けることができる。
2点目のシーンでは、アレクサンダー=アーノルドの助走に合わせて動く相手DFが裏を取られている。そこでアウトスイングのロバートソンのクロスが入ることで、フィルミーノがフリーでヘディングシュートを放つことができた。
質の高い攻撃参加と配球をするロバートソンとアレクサンダー=アーノルドは、今季も相手にとって大きな脅威になっている。今季はここまで両者ともに2アシストをマーク。昨季は合わせて23得点をアシストした両SBは、今季もリーグトップタイの数字を残している。
チェルシー戦の勝利により、最大のライバルであるマンチェスター・シティとの勝ち点差を5に保ち、開幕からの連勝を6に伸ばした。苦しい戦いを強いられたリバプールだったが、セットプレーという「飛び道具」によって得点を決めたことは大きな収穫となった。
(文:加藤健一)
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