コンセイソン体制3年目、勝負の年
昨季はわずか2ポイント差で王座を宿敵ベンフィカに奪われた。今季のポルトが目指すのは、リーグの覇権の奪還。チャンピオンズリーグ出場の道が絶たれた今、セルジオ・コンセイソン監督体制3年目の最も大きな目標はリーグ優勝に他ならない。
補強の面では夏に退団した昨季までの主力選手たちの穴埋めが至上命題だった。センターバックの主戦だったDFフェリペと中盤の要にしてキャプテンを務めていたMFエクトル・エレーラがアトレティコ・マドリーへ移籍。攻撃の核だったMFヤシン・ブラヒミも契約満了にともないフリーでカタールへと移籍していった。
またセンターバックと右サイドバックの両方を高いレベルでこなすブラジル代表DFエデル・ミリトンは移籍金5000万ユーロ(約60億円)を残してレアル・マドリーへ。スペイン人MFオリベル・トーレスもポテンシャルの全てを発揮しきれぬままセビージャへと旅立った。
彼らの去ったポジションに、今夏のポルトはピンポイントで補強を図った。しかし、シーズン開幕となったチャンピオンズリーグの予選でロシアのクラスノダール相手に苦杯を舐め、欧州の頂点を争う舞台への挑戦権を掴み損ねてしまう。さらに国内リーグ開幕戦では昇格組のジル・ヴィセンテに不覚を取った。
とはいえ徐々に新戦力たちがチームにハマっていき、結果もついてきている。リーグ戦は第2節から薄氷ながらも4連勝を果たし、19日に行われたヨーロッパリーグ(EL)のグループリーグ初戦でもスイスのヤングボーイズを2-1で退けた。
イケル・カシージャスが心臓疾患で休養中のGKには、欧州初挑戦となるアルゼンチン代表GKアグスティン・マルチェシンが収まり、毎試合のように際どいピンチの場面で好セーブを連発しチームを救っている。
またフェリペはミリトンがいなくなったセンターバックでは、1年での出戻りとなったイバン・マルカノが安定したパフォーマンスを披露。エクトル・エレーラが抜けたセントラルMFも、「順応は簡単だった」と豪語したコロンビア代表MFマテウス・ウリベが獅子奮迅の活躍ぶりで気を吐いている。
絶えず移籍の噂があったFWムサ・マレガを引き止められたのも、ある意味で大きな補強だろう。相方にはスパルタク・モスクワから獲得したカーボヴェルデ代表FWゼ・ルイスが起用され、リーグ戦5試合で5ゴールと抜群の決定力でチームをけん引している。控えに回ることも増えたFWチキーニョ・ソアレスもELのヤングボーイズ戦で華麗に2ゴールを決めるなど健在で、彼らの前線における力強さはポルトの攻撃における大きな武器だ。
ただ、この夏に最も高額な移籍金1200万ユーロ(約14億円)で加入した日本代表MF中島翔哉は、まだ本来のポテンシャルを発揮しきれていない。得意とする左サイドのポジションは、同じく新加入で22歳と伸び盛りのコロンビア代表FWルイス・ディアスが確固たる地位を築きつつある。
もう1つ不安のあるポジションは右サイドバックだ。ミリトンやベテランのマキシ・ペレイラが退団したところに、今夏のコパ・アメリカにも出場したアルゼンチン代表DFレンゾ・サラビアとポルトガル人DFウィルソン・マナファは、セルジオ・コンセイソン監督の信頼を掴みきれておらず、本来ウィングのMFヘスス・コロナがコンバートされることになった。
戦術面でもコロナと左サイドのDFアレックス・テレスが誇る圧倒的な攻撃力を生かすため、ウィンガーのポジショニングを調整するなど工夫がなされている。強烈なサイドアタックからペナルティエリアにクロスを入れ、肉体派2トップに合わせる形はポルトの十八番だ。
今夏退団した選手たちの穴埋めに関して言えば、現時点では最低限と言える。BチームやU-19チームから昇格した若手たちも質の高いプレーを披露して競争に割って入ってきているが、チーム力自体がアップしているかどうかは未知数な部分も大きい。本当の意味で昨季以上のポルトとなり、優勝を争うには中島をはじめとした新戦力たちのさらなる奮起が不可欠だ。
補強・総合力評価
IN
GK アグスティン・マルチェシン(クラブ・アメリカ)
GK ジオゴ・コスタ(ポルトB/昇格)
GK モハメッド・エムバイエ(ポルトB/昇格)
DF イバン・マルカノ(ローマ)
DF ウィルソン・マナファ(ポルティモネンセ)
DF レンゾ・サラビア(ラシン・クラブ)
MF マテウス・ウリベ(クラブ・アメリカ)
MF ロマーリオ・バロ(ポルトB/昇格)
MF セルジオ・オリベイラ(PAOKテッサロニキ/期限付き移籍期間満了)
MF 中島翔哉(アル・ドゥハイル)
FW ゼ・ルイス(スパルタク・モスクワ)
FW ルイス・ディアス(ジュニオール)
FW ファビオ・シルバ(ポルトU-19/昇格)
OUT
GK ファビアーノ(未定)
DF ジオゴ・ケイロス(ポルトB/昇格→ムスクロン/期限付き移籍)
DF マキシ・ペレイラ(未定)
DF エデル・ミリトン(レアル・マドリー)
DF フェリペ(アトレティコ・マドリー)
MF オリベル・トーレス(セビージャ)
MF エクトル・エレーラ(アトレティコ・マドリー)
MF ヤシン・ブラヒミ(アル・ラーヤン)
FW フェルナンド・アンドラーデ(シヴァススポル)
FW エルナニ(レバンテ)
FW アドリアン・ロペス(オサスナ)
FW アンドレ・ペレイラ(ヴィトーリア・ギマランイス/期限付き移籍)
補強評価:C
やはりポルトは「育てて売るクラブ」であることに変わりはない。今季も育成組織から将来のスター候補が続々と引き上げられ、17歳のファビオ・シルバや19歳のロマーリオ・バロはすでに継続的な出場機会を得ている。そしてエデル・ミリトン、フェリペ、オリベル・トーレスの売却によって総額8200万ユーロ(約97億円)を稼ぎ出しているのも見逃せない。一方、新戦力獲得のためにそれほど派手でな投資はしていない。現時点でチームの戦力になっているとは言えない選手もおり、チームとして真価を発揮するのはもう少し先になりそうだ。
総合評価:C
ポルトガル国内ではベンフィカやスポルティングCPと並び、例年通り「3強」の一角に恥じない戦力を揃えているが、欧州4大リーグのビッグクラブと比較すると少々物足りないか。軸となるポジションには経験豊富なベテランや計算できる柱の選手がおり、伸び盛りの若手とうまくミックスされている。安定した攻撃力を発揮するためにも、課題となっている後半の活動量の低下とそれに伴う主導権の喪失は改善策を見つけていきたいところだ。
【了】