主役は中島翔哉
相手がカウンターを狙ったシチュエーションから生まれた先制ゴールだった。FWのタン・パインが右サイドから抜けようとしたところを堂安律と大迫勇也が戻りながら挟み込んでボールをロストさせる。そこをカバーした冨安健洋が素早くダイアゴナルのパスを出すと、その先には10番がいた。
左足でボールを前にコントロールした中島翔哉はそのまま縦にボールを運び、ペナルティエリアの左角から中に鋭く切り込むと、右足を一閃させる。すると鋭い軌道を描いたボールはGKチョー・ジンピョがいっぱいに伸ばした手の先を抜けてゴール右隅のネットを揺らした。この試合で驚異的な反応を見せて日本に立ちはだかることになるミャンマーの守護神も、このシュートはどうしようもなかった。
中島の個人技が目立ったシーンではあるが、1つ前おきしておくなら堂安の効果的な動きなくして生まれなかったシチュエーションだ。相手のカウンターを止めた守備もさることながら、そこから間髪入れず縦にスプリントし、冨安からボールを受けた中島の内側を走り抜けることで、中島とマッチアップする右サイドバックのゾー・リン、さらにはアンカーのゾー・イェトゥンも引き付け、インサイドに中島の進出コースを作った。
「カウンター注意しろっていうのはあのポジションはつねに言われてるので、引かずに奪いに行ったシーンがよかった」
堂安はボール奪取について「ラッキーです」と前置きしながらそう振り返る。右サイドであれば堂安が似たような形から左足でゴールを狙うシチュエーションであるが、慣れない左サイドであの瞬間に効果的なフリーランができるというのは状況に応じたチームプレーができる選手であることを示すプレーだ。それでも堂安が「翔哉君の個人技だと思います」と認める通り、主役は中島だった。
W杯へ、不可欠な存在に
ミドルシュートを得意とする中島ではあるが、度重なるチャンスからなかなかゴールが生まれない時間帯に自分の形をしっかりと作ってゴールに結びつけるというのは見事と言う他ない。「シュートを打てる時は打とうと思ったので打ちました」と実に中島らしい表現で振り返ったが、1年間の準備を経て“森保ジャパン”の本当の意味での船出となる予選のファーストゴールを10番の中島が決めたと言うのは非常に大きいし、ここからカタールワールドカップに向けて誰が攻撃の中心を担って行くかを証明したゴールと言える。
さらに南野拓実のゴールが生まれ、後半は多くのチャンスを作りながら相手を仕留めきる3点目は生まれなかったが、敵地で2−0の勝利と言う結果で予選の第一歩を踏み出すことができた。それも中島の先制ゴールがあって生まれた流れだ。
「どの試合でも得点、先に点を取ることは大事だと思いますけど、あまり気にしてないというか、他にも得点できそうなシーンはあったので、そういうところでより成長して、それをしっかりと個人的に決めていけるようになりたい」
そう語る中島は「親善試合とは違うと思いますけど、僕自身はどの試合でもチームの勝利に貢献できるように全力でプレーすることをやろうとしているので、今日の試合もそれを心がけていました」と平常心で試合に入っていたことを主張する。
選手にはあえて強気の発言をすることでプレッシャーをかけて克服するタイプもいるが、中島は大舞台であろうと練習試合であろうと全力でプレーを楽しむことを心がけているようだ。
この予選最初の試合に絡めたことについても「選ぶのは監督だったり、テクニカルスタッフだと思うので、選ばれた時に常に全力でプレーして、チームに貢献できるようにがんばっていきたい」と語った中島だが、ここから長い予選を戦い抜き、彼にとっては“約束の地”とも言えるカタールで行われるW杯まで不可欠な存在になっていくことを印象付けたのは確かだ。
(取材・文:河治良幸【ミャンマー】)
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