フットボールチャンネル

日本代表 5年前

日本代表、大迫勇也は「連れてってもらう」からエースへ脱皮。快勝によぎる4年前の残像

キリンチャレンジカップ2019の日本代表対パラグアイ代表戦が5日に行われ、日本が2-0で勝利を収めた。この日、代表44試合目の出場で15得点目となった大迫勇也のゴールが、日本代表の先制点となった。しかし、快勝してなお、カタールワールドカップに向けて必要不可欠なエースは、来るアジア2次予選に向けてチームの課題に警鐘を鳴らした。(取材・文:元川悦子【鹿嶋】)

text by 元川悦子 photo by Getty Images

エースの決意と責任に満ちた先制ゴール

0906osako_getty
パラグアイ戦で先制ゴールをあげた大迫勇也【写真:Getty Images】

「代表でずっと中心でやってるから、しっかり結果を出さないといけないって責任感はある。そこはもう自分自身に対してプレッシャーをかけながらやるだけだと思うんで」

 2022年カタールワールドカップへの第一歩となるアジア2次予選初戦・ミャンマー戦を控え、大迫勇也は絶対的エースの自覚を改めて口にした。2014年ブラジル、2018年ロシアという過去2度ワールドカップは予選を断片的にしか経験せず、本田圭佑や岡崎慎司、香川真司ら先輩たちに「本大会に連れて行ってもらう立場」だったが、今回は違う。3度目の世界舞台を自らの力でつかまなければならないのだ。

 本番前最後のテストの場となった5日のパラグアイ戦では、そんな決意と責任感が強く表れていた。

 最前線に陣取った背番号15は、2列目の堂安律、南野拓実、中島翔哉と序盤からいい距離感を保ち、ダイレクトのパス交換からゴール前へ侵入。18分には酒井宏樹の右クロスに反応。中央でボールを受けてフリーでシュートを放ったが、惜しくもGK正面に。しかし、今季ドイツ・ブンデスリーガ1部ですでに3得点を奪っているゴール前の反応の鋭さが色濃く感じられた。

 迎えた23分。中島→堂安とつながり、左サイドの長友佑都が折り返した瞬間、大迫は相手DFとの駆け引きから一気にニアへと飛び出し、フリーになった。長友のクロスはDFの足に当たりコースが変わったが、それに反応して左足を一閃。待望の先制点を叩き込んだ。

「長友さんからいいボールが来たんで、当てることだけを考えて打ちました」と本人は涼しい顔で言うが、アシストした長友の方は「完全に僕のキックミス」と苦笑した。「目の前で敵に当たって軌道が変わって、それにうまく合わせるっていうのは難しい。簡単に見えて、『大迫様様』ですよ」と先輩サイドバックに言わしめる高度なテクニックと戦術眼が凝縮されたゴール。それをかつての本拠地だった鹿島で奪い、チーム全体に力を与えたのは間違いない。

過去のワールドカップ予選では1得点のみ

 この日は永井謙佑と交代する後半22分までプレー。2-0の勝利の最大の原動力になった。単に攻撃のけん引役となっただけではなく、前線からの激しいプレスでファーストDFとなり、守備でも大きく貢献。運動量も豊富で動きにキレがあり、味方と生かし生かされる関係も築いていた。今の彼は最高に充実した状態にいる。エースが絶好調の中、カタールへの挑戦をスタートさせられることは、森保一監督にとっても力強い材料に違いない。

 日本がここから7大会連続となるワールドカップ出場を果たそうと思うなら、確固たる得点源が必要不可欠になる。その大役を5~6年にわたって担い続けた岡崎・本田・香川の三枚看板がいなくなった今、その役割を一手に引き受けられるのは大迫しかいない。

 これまでワールドカップ予選の得点が2017年6月の最終予選・イラク戦の1点にとどまっていることは、本人にとっても不本意なはず。今回はミャンマー戦からゴールラッシュを見せることが肝要だ。

 大迫の現時点での代表通算得点は15。カタール本番までの3年間でコンスタントにゴールを重ねられれば、香川や本田が記録した30点台まで数字を引き上げることも可能だろう。「半端ない点取り屋」にはそれだけの能力が十分にある。それを数字で証明するだけだ。

格下シンガポールとのドローを知る大迫勇也

 そのうえで、今季ドイツでも2ケタという未知なる領域に到達できれば、1年後のステップアップも見えてくるかもしれない。

「サコは29歳か。ブレーメンでもうちょっと結果を残して、ビッグクラブへ行ってほしいですし、そのくらい貪欲にやってほしいですね。今の彼は相当レベルが高い。だから大きなクラブでどれだけやれるのかを正直、僕は見てみたい」と長友もエールを送った。

 来年5月に30歳の大台を迎えるだけに、上のステージを狙うつもりなら悠長にはしていられない。本人が「今季は勝負のシーズン」と語気を強めているのも、自身に残された飛躍のチャンスが決して多くないことをよく理解しているからだろう。代表でもクラブでも頭抜けた数字と存在感を残すべく、一気にギアを上げてほしいものだ。

 さしあたって、重要なのは10日のミャンマー戦だ。前回の2次予選初戦だった2015年6月のシンガポール戦はシュート23本を放ちながら、まさかのスコアレスドロー。そこから苦戦を強いられることになった。大迫自身も香川に代わって後半からピッチに立ったが、ゴールを奪えず、存在感も示せなかった。あの不本意なドロー劇を機に1年5カ月も代表から遠ざかったことを本人も忘れるはずがない。4年間の成長を示すのは今しかない。

「改善点は3点目ですね。3点目を取り切れるチャンスがあったので。2-0だと相手に取られればバタバタしてしまうゲームになっちゃうので」と大迫はパラグアイ戦の内容に警鐘を鳴らした。確かにあのシンガポール戦の時も、直前のイラクとのテストマッチを4-0で快勝。チーム全体に楽観ムードが漂った。その時と同じことをしていたらベタ引きで守ってくるミャンマーに足元をすくわれかねない。当時を知る生き証人である絶対的エースには負の歴史を断ち切る大仕事を強く求めたい。

(取材・文:元川悦子【鹿嶋】)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!