首位FC東京を追う鹿島アントラーズ
開幕からJ1の主導権を握り続けてきたFC東京は、シーズンの3分の2を過ぎ、残り10試合となった段階でもまだ首位を守っている。
だが過去にJ1を制した経験のない彼らは、慣れない立場のままシーズン終盤に突入し、プレッシャーにどの程度対処することができるかはまだ分からない。味の素スタジアムがラグビーワールドカップに使用される関係で、今後の7試合も含めて残り試合のうち8試合をアウェイで戦わなければならないという状況も考えればなおさらのことだ。
さらに長谷川健太監督のチームが神経を尖らせなければならないのは、彼らの首筋まで迫りつつあるチームが、他ならぬ鹿島アントラーズであるという事実だ。
日本で最も成功を収めてきたクラブは、2019シーズンをやや不安定な形でスタートさせた。開幕から9試合のうち3試合で敗れ、2試合はドロー。4月半ばにはアウェイでのFC東京戦にも1-3で完敗を喫した。昨季の主力選手のうち5人(西大伍、昌子源、安西幸輝、安部裕葵、鈴木優磨)がチームを去り、クラブのレジェンドである小笠原満男もスパイクを脱いだ今季は、茨城のチームにとって過渡的な1年になりそうだと考えられた。
だがゴールテープが見え始めたこの時期になって、アントラーズはまだ4つのタイトル全てにチャンスを残している。リーグ戦ではFC東京を十分に捉えられる4ポイント差に位置し、天皇杯ではベスト16進出。ルヴァンカップとAFCチャンピオンズリーグでも準々決勝を控えている。
ジーコが強調するJ1優勝の重要性
このスケジュールが、今後数週間の鹿島にとって大きな重荷となることは避けられない。大岩剛監督はその負担を軽減するためメンバーのローテーションを余儀なくされる。これまで通算20個のタイトルを獲得してきた鹿島が、さらに4つを加えられる可能性は極めて低いだろう。
だとしても、鹿島にとって状況は望み通りに進行している。シーズン開始前にジーコが要求した通りの戦いがここまでできているということだ。
「今年の最大の目標は、Jリーグを勝ち取ること。これを絶対に成し遂げるという目標を掲げて、チーム作りを進めていく必要があるでしょう」。2018年半ばにテクニカルディレクターとして鹿島に戻ってきたブラジルのレジェンドは、2019シーズンに向けたクラブのオフィシャルコメントの中でそう述べていた。
「当然、ルヴァンカップ、天皇杯があり、ACLの連覇も目標になります。4つの大きなタイトルがある中で、できるだけ多くのタイトルを獲るということがアントラーズの目指すところではあるのですが、まずはJリーグ。国内での復権を必ずやり遂げることを強調しておきたいです」
アントラーズがJリーグ草創期に有力クラブとしての地歩を固める上で中心的な役割を果たしたジーコが、J1タイトルを優先事項に挙げるのは当然のことでしかない。国内リーグでの成功こそが、このクラブが地位を築き上げてきた基盤だからだ。
「サッカーはシンプルなスポーツ」
赤いユニフォームを身に着けるのがどの選手であっても、トロフィーを勝ち取ることに集中する哲学が鹿島には常に染み込んでいる。ガンバ大阪と2-2で引き分けた先週金曜日の試合でもそれは明白だった。
鹿島のラインナップは2018シーズンのリーグ最終戦を戦ったイレブンからはもはや9人も入れ替わっており、ファーストチョイスのCBコンビである犬飼智也とチョン・スンヒョンも不在だった。それでもいつも変わらぬ粘り強さを披露し、冷静さを保ち続けた鹿島は2度のビハインドから追いついて勝ち点1を獲得。リーグ戦最近11試合で1敗のみと、しぶとい戦いを続けている。
今後2ヶ月の戦いがより厳しいものとなることは間違いない。リーグ戦のラストスパート5試合では宿敵浦和レッズ、2年連続王者の川崎フロンターレ、サンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸、名古屋グランパスとの戦いが待ち構えている。
だがその前にもまだ戦うべき試合は少なくない。タイトル争いはこれからさらに白熱し、無数の紆余曲折を経ていくことになるだろう。フロンターレも、不屈のサンフレッチェも、勢いのある横浜F・マリノスも、北海道コンサドーレ札幌も、まだまだ争いに残っている。
だがゲーリー・リネカーもかつて言ったように、「サッカーはシンプルなスポーツ。22人が90分間ボールを追いかけ、最後にはいつもドイツが勝つ」ものだ。何が起ころうとも必ずトロフィーを手に入れるドイツ代表の力に言及したものだが、この発言はそのままアントラーズに当てはめることもできる。
鹿島は過去23シーズンのうち15シーズンで、少なくともひとつはタイトルを獲得している。戦いが終われば、最後に勝利を祝っているのは結局彼らだ。4つの大会でまだ優勝の可能性を残し、着実にギアを上げてきている鹿島は、今年もトロフィーケースに空きを作っておく必要が出てくる可能性が高まっているように思える。そこにまたひとつJ1の優勝楯が並ぶのを、果たしてFC東京は阻止できるのだろうか。
(文・ショーン・キャロル)
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