グリーズマンの背番号7を受け継ぐ“ネクスト・ロナウド”
エースとしてチームを牽引してきたアントワーヌ・グリーズマンが去ったアトレティコ・マドリー。グリーズマンの他にも、ガビ、フェルナンド・トーレス、ディエゴ・ゴディン、フィリペ・ルイスらベテランが続々とチームを去る中で、2019年夏に19歳のジョアン・フェリックスはやってきた。
ポルトガル北部のビセウで生まれ育ったフェリックスは、FCポルトの下部組織で7年間プレー。しかし、ポルトでは大成することなく15歳のとき放出されてしまう。華奢な体つきが理由だったという。
ポルトを退団後、ベンフィカに籍を移したフェリックスは、2016年9月17日、16歳にしてセカンドチームの一員としてデビュー。UEFAユースリーグでは6得点を挙げる活躍でチームの準優勝に貢献した。リーガプロ(ポルトガル2部)で経験を積んだフェリックスは、18/19シーズンに満を持してトップチームデビューを果たすことになる。
トップチームデビューとなった第2節ボアビスタ戦、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフ1stレグ・PAOK戦、第3節スポルティング戦に3戦連続で途中出場を果たすと、このスポルティング戦で国内の注目を一気に集めることになる。
ベンフィカのホームで行われた“リスボンダービー”は、64分にナニのゴールでベンフィカが先制を許すと、その7分後にフェリックスが登場。すると86分、右サイドからのクロスを中央で待ち構えていたのがフェリックスだ。181cm70kgの細身の体をしならせて頭を振り抜くと、ボールはゴールへと吸い込まれ、試合は同点となった。
デビュー3戦目にして、チームにとって貴重な同点弾を決めたフェリックスは、徐々に出場機会を伸ばす。すると、それと比例するように得点を量産し、後半戦17試合で11ゴール8アシストをマーク。大きなインパクトを残したフェリックスは年間ベストイレブンと年間最優秀若手選手賞に選出された。
オフには獲得を巡って、レアル・マドリー、マンチェスター・シティなどが手を挙げていると報じられる中、アトレティコがフェリックスを獲得。移籍金はアトレティコ史上最高額の1億2720万ユーロ(約154億7000万円)と報じられ、2026年6月までの7年契約を結んだ。
そのプレースタイルは?
2003年にスポルティングからマンチェスター・ユナイテッドへと移籍したクリスティアーノ・ロナウドとは、「19歳」で「リスボン」から「ビッグクラブ」へと移籍して「背番号7」を背負う「ポルトガル人アタッカー」という多くの共通点を持つことから、“ネクスト・ロナウド”と呼ばれて比較されることも多い。
しかし、サイドに張って、爆発的なスピードや、シザーズやエラシコなどを巧みに使って相手を翻弄するドリブラーだった若き日のロナウドと、フェリックスのプレースタイルは似ているとは言い難い。センターフォワードとしてボックス内でフィニッシャーとして覚醒した近年のロナウドとも異なる。利き足を除けば、どちらかというとアトレティコでのグリーズマンのプレーに近い。
プレシーズンでは5試合で4得点3アシストをマーク。加入直後にも関わらずアトレティコで結果を残すことに成功。特に圧巻だったのは、8月10日のユベントス戦、本家ロナウドとの対決だった。
24分に新加入のキーラン・トリッピアーが右サイドからクロスをあげると、フェリックスはファーサイドでDFの背後からDFの前に忍び込み、右足で豪快にボレーシュートを決めた。
さらに同点追い付かれた後、33分にはフェリックスがDFラインとGKの間に落ちたボールをショートバウンドで右足に当てて、ダイレクトでゴールに流し込んだ。ほぼ背後からのボールに走り込みながらボレーを放つという、空間認知的に非常に高度なプレーだった。
ウインガーというよりはセカンドトップ。シュート技術が高いのは言わずもがな、中央でもボールを失わない身のこなしに加えて、ラストパスを通す能力にも秀でる。サイドハーフとしてプレーする際も、常にサイドに張らず、中央でボールでも積極的にボールに絡む。
昨季はポルトガル1部でリーグ戦26試合に出場し、1735分で15得点9アシストをマーク。約72分に1度のペースで得点かアシストを記録する驚異的な数字を残している。
フェリックスの活躍は新生アトレティコの浮沈にも大きく影響する。アトレティコはプレシーズンで4-3-3を試し、18日のラ・リーガ開幕節のヘタフェ戦では中盤がダイヤモンド型の4-4-2を採用するなど、複数のフォーメーションを使い分ける。センターフォワード、サイドハーフ、ウイングと、布陣によって求められる様々な役割に適応できるかどうかが今後の活躍の鍵を握ることになるだろう。
(文:編集部)
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