失意の昨季からの脱却へ
クリスティアーノ・ロナウドを失った昨季は、レアル・マドリーにとって受け入れ難いものとなった。リーグ戦ではバルセロナに大差をつけられ、3位でフィニッシュ。前人未到の3連覇中であったチャンピオンズリーグ(CL)でも伏兵・アヤックスに敗れベスト16で姿を消し、国内カップ戦でもバルセロナに屈して準決勝で敗退と、2018/19シーズンは良い所が一つも見当たらなかった。
そんな昨季からの巻き返しへ。マドリーは今夏、チェルシーからエデン・アザールを加え、その他にもルカ・ヨビッチ、エデル・ミリトン、フェルラン・メンディ、ロドリゴ・ゴエスら実力者を揃えるなど積極的な補強に動いた。『Transfermarkt』調べによる今夏の移籍金総支出額は現時点で3億550万ユーロ(約360億5000万円)。これは、欧州全クラブの中で最も高額なものとなっている。
こうして豪華な新戦力をチームに加えたマドリー。しかし、新シーズンに向け、期待値は決して低くなかったようにも思えるが、プレシーズンマッチでは散々な結果に終わった。ライバルのアトレティコ・マドリーに3-7の大敗を喫するなど、マドリーは攻守のバランスが崩れ、脆さを露呈。ポジティブな面がほとんど見つからず、無残な姿を晒してしまったのである。
そんな中迎えた、リーガ・エスパニョーラ開幕戦。不安ばかりが残ったマドリーは、負傷したアザール、マルコ・アセンシオ、F・メンディらが起用できなかったため、先発メンバーに名を連ねたのは昨季の主力選手であった。中でも驚いたのが、ジネディーヌ・ジダン監督の構想外と思われていたガレス・ベイルのスタメン入り。彼がどこまで活躍できるかには、大きな注目が集まった。
躍動する“構想外”のベイル
快晴に恵まれたエスタディオ・バライドスに試合開始のホイッスルが鳴り響くと、まずボールを支配したのはセルタであった。最終ラインから丁寧な繋ぎを見せ、マドリーのプレスを的確に回避。とくに左サイドで仕掛けることができるデニス・スアレスを起点とした攻めを構築し、4-1-4-1のような形で守るアウェイチームの壁を突破しようと試みた。実際、セルタは前半のうちに何度か相手陣内深い位置まで侵入するなど、良い形を見せたシーンも多かった。が、フィニッシュまでは持ち込めない。相手のDFラインを前に、最後の部分でアイデアを欠いたのである。
一方、マドリーはボールを奪ったら素早く縦に展開。ルカ・モドリッチとトニ・クロースが攻めの中心となり、サイドバックのマルセロ、アルバロ・オドリオソラも高い位置を取ることで厚みのある攻撃を仕掛けた。
中でも躍動したのがベイル。アウディ・カップ開催中にゴルフを楽しむなどシーズン開幕前まで様々な問題が浮き彫りとなった同選手であったが、試合開始からコンディションの良さをアピールし、セルタの脅威となる。そして12分、カゼミロが中盤でボールを奪うと、ウェールズ代表FWが左サイドを突破。鋭いグラウンダーのクロスを供給すると、これをニアサイドでカリム・ベンゼマが合わせ、マドリーが先制に成功した。ベイルは、さっそく先発起用に応える活躍を見せたのである。
その後も背番号11は前線で圧巻のパフォーマンスを披露。28分にはマルセロからフライスルーパスが出ると、抜群のスピードを見せルーカス・オラサを追い抜いてボールをキープ。状態の良さは明らかであった。
44分には斜めの動きでオラサに対し有利な状況を作ると、クロースからのスルーパスに抜け出して左足でシュート。これはGKルベン・ブランコにセーブされたものの、前半45分間の出来はチーム内で最も評価されるべきものであった。セルタはこの背番号11を止めることができず、ズルズルと最終ラインが下げられ、ビルドアップの開始位置が低くなってしまったのが痛かった。
マドリーを襲うアスパスの脅威
前半はボール支配率42%となっていたマドリーであったが、シュート数は6本を記録するなど全体的には悪くない45分間を送っていた。前半終了間際にオドリオソラのミスからあわやといったシーンはあったものの、対してセルタにはシュート1本しか許さないなど攻守ともにプレシーズンマッチのような不安定さは感じられなかった。
しかし、1-0とリードした状態で迎えた後半立ち上がりはマドリーにとって苦しいものとなった。
とくに脅威となったのがセルタの絶対エースであるスペイン代表のFWイアゴ・アスパス。オフ・ザ・ボール時から違いを作り、左右両足から放たれる質の高いキックを武器に味方を使い、自ら仕掛けることができるなど抜群のセンスを持つこのストライカーに対し、マドリーは何度かビッグチャンスを作られた。
48分にはD・スアレスのスルーパスに抜け出したアスパスがシュート。これはGKティボー・クルトワのセーブで何とか失点は免れたが、その前のアスパスによる動き出しのタイミングとスピードはともに抜群で、ラファエル・ヴァランは捕まえきることができなかった。
50分にはカウンターからD・スアレスがボールを持つと、再びアスパスへスルーパス。ボールを受けた背番号10がクロスを上げると、最後はブライス・メンデスに決定機が訪れた。
D・スアレスがボールを持って顔を上げた瞬間、アスパスは一度カゼミロの前に飛び出てから再び縦への動きを見せ、空いていたオドリオソラの背後のスペースを的確に突いた。ここでボールを呼び込んだことにより、ペナルティエリア中央にメンデスが飛び込み、ファーサイドにスタニスラフ・ロボトカがポジショニングでき、マドリーの守備3人に対しアスパス含めた3人で攻めることができた。シュートは惜しくもカゼミロに防がれたが、アスパスのセンスが光った象徴的なシーンと言えるだろう。マドリーは背番号10に対し、効果的な守備を見せられなかったのである。
押し込まれたマドリーはさらに、56分にモドリッチがD・スアレスへのファウルを取られ一発退場を喰らうなど数的にも不利な状況に追い込まれた。前半の空気から一変、流れはセルタに傾いたのである。しかし…。
数的不利も力でセルタをねじ伏せる
クロアチア代表MF退場のわずか5分後のことであった。ペナルティエリア左外側でボールを受けたクロースが右足を振り抜くと、これがクロスバーに当たってゴールイン。数的不利なマドリーが追加点を奪ったのである。
さらに79分にはワンタッチパスで的確に相手DFを剥がし深い位置まで侵入していくと、最後は途中出場のルーカス・バスケスがゴール。3-0とセルタを大きく突き放すことに成功している。
このシーンでは、ベンゼマの動きが一つのポイントになったと言えるだろう。ピオーネ・シストからカゼミロがボールを奪った瞬間、背番号9はスルスルとポジションを上げていき、最終的に相手CBとSBの間のスペースへ移動。ただ、大外にはバスケスがいたため、オラサはベンゼマに対しそこまで強く寄せきれない。そのため背番号9はそのスペースへポジショニングした時点で必然的にネストル・アラウホと1対1の状況を作ることができたのだ。
そこで巧みなターンを見せ、アラウホを交わしたベンゼマ。この時点で勝負はあった。慌てて寄せて来たオラサだが、その分バスケスが空く。ベンゼマはそこも見逃さず、ゴールをお膳立てしたのだ。これでフランス人FWはこの日1ゴール1アシスト。申し分ない働きを見せた。
マドリーはその後、91分にイケル・ロサーダに1点を返されたものの、3-1で勝利。開幕白星スタートとなった。
データサイト『Who Scored』によると、この日のマドリーは支配率こそ43.6%とセルタを下回ったものの、シュート数は17本と全体的には試合のペースを握っていたと言える。対してセルタには7本のシュートしか許さないなど、攻守両面で強さを見せた。
モドリッチ退場で数的不利な状況になりながら、その後2点を追加し、3-1で勝利。苦境に追い込まれながらも勝ち切るその力は、昨季にはなかった、真のマドリーの底力と言ってもいいのではないだろうか。
(文:小澤祐作)
【了】