マルセイユの年間最優秀選手に選出
酒井宏樹が所属するマルセイユは、現在プレシーズンツアーでアメリカを訪問中だ。21日には、リーグアンのライバル、サンテティエンヌと現地で対戦。酒井も出場したその試合は、2-1でマルセイユが勝利した。
マルセイユの現在の補強状況は、スペインのビジャレアルから、センターバックのアルバロ・ゴンザレスを1年間のレンタル契約で迎えた。これまでゴール前で気を吐いていたロランドが契約満了により退団、残るはベテラン、アディル・ラミと、19歳の若手ブバカ・カマラ、昨年入団したばかりのクロアチア代表ドゥイェ・チャレタ=ツァルと、人数的にも戦力的にもやや心もとないメンバーだから、29歳のゴンザレスには、即戦力として期待がかかる。
彼自身、生まれて初めての海外移籍ということなので、いかにフランスリーグに順応できるかが重要なポイントだ。
チャレタ=ツァルも、昨シーズン、とくに序盤戦は持ち味を発揮できていなかった。しかし後半になるにつれて、フィジカルな当たりへの対応にも慣れ、際どいシュートを咄嗟にカットするような反射神経の良さも発揮し始めた。今シーズンは、センターバックの主戦力として、頼りにできそうな気がする。
その彼らとDFラインでコンビを組む酒井は今季で4年目、先輩選手としての風格も漂ってきた。なんといっても酒井は、サポーターによる投票で、昨シーズンのマルセイユの年間最優秀選手に選ばれた。
こういった投票では攻撃手、それかクリーンシートを連発した守護神GKなどが選出されるのが常。サイドバックの酒井が選出されたのは、酒井も日頃「サイドバックが目立った試合はチームとして出来がよくなかったということ」と話しているとおり、チームとしてマルセイユが苦戦していたことを示すものではあるものの、それ以上に彼が年間を通じてチームで一番活躍した選手であると、マルセイユを一番身近で見ている人たちが判断した、ということだ。
ときどき『酒井は現地フランスでどのような評価をされているのか?』という問いを受けるのだが、これ以上、価値のある評価はないのではないかと思う。
酒井のフランスでの評価は?
先日、女子ワールドカップの会場で久々に顔を合わせた辛口サッカーコラムニストのジェローム・ラッタ氏も、「ディフェンダーが年間MVPというのはチームとしては問題だが…」と前置きした上で、「そのことと彼の能力は別問題。酒井は素晴らしい選手で、個人的にも大好きだ」と絶賛していた。
現在、酒井にトッテナムが興味を示している、という噂が浮上している。英スカイスポーツは、『サカイはポチェッティーノを満足させられるタイプの選手である』と報じたが、これについてフランスの読者たちからは、『サカイが満足させられるのはポチェッティーノだけではない。まず最初に我々が大変満足している』『サカイのことをありがたがらない監督は少ないだろう。彼のように頼りになって、プロ意識が高く、献身的で、それでいて謙虚な選手を欲しい監督はいくらでもいる』といったコメントがつけられた。
実際酒井は、プレーが非常に安定していて好不調の波が少なく、毎試合、確実に一定のパフォーマンスが見込める、フランスでは非常に稀なタイプの選手だ。「いつでも頼りになる」、と言われる所以だろう。
数字で見ても、昨シーズン、酒井は全コンペティションあわせて14試合を欠場しているのだが(年明けのアジアカップ出場や怪我、累積警告など)、酒井が不在だった試合では、マルセイユはなんと2試合しか勝てていない。
とりわけアジアカップ中の5試合は、1勝3敗1分と、大きく崩れた。ところが酒井が復帰した初戦から勝ち星に転じ、以後、パリ・サンジェルマンに敗れるまで、5勝1分と無敗をキープ、低迷期を脱した。
「彼はマルセイユに必要な選手だ」
酒井は「(自分の復帰と重なったのは)偶然です。むしろマリオ(バロテッリ)の加入が大きいと思います」と謙遜していたが、酒井は、彼自身のパフォーマンスだけでなく、周りの選手の特徴をよく把握して、彼らがプレーしやすいよう動くという術も持っている。
酒井の復帰で守備面が安定し、なおかつ攻撃陣もプレーしやすくなった。そのことと、試合結果が好転したのは無縁ではない。
主戦場は右サイドバックであるのに、左サイドバックや3バック時のセンターもこなすなど、汎用性が高い点も評価されている。最初は左サイドはやりにくそうだったが、右サイドのフロリアン・トーバンだけでなく、左サイドのMFルーカス・オカンポスとのコンビネーションもどんどん機能するようになり(オカンポスがこの夏セビージャに移籍してしまったのが悔やまれる)、2人のコンビプレーから数々の勝機が生まれた。
さらには、彼のクレバーかつクリーンなプレーもファンの尊敬を集めている。戦術としてのファウルはあっても、小狡いプレーはしないし、倒されてもすぐに立ち上がって次のプレーに向かうスピリッツが素晴らしいと。
昨年、マルセイユの街中に、酒井のストリートアートが登場したのだが、作者のフランク・コント氏は、甲冑を身につけた侍スタイルのデザインを選んだ理由について、「クリーンでフェアに戦う、酒井はまさに侍のイメージ」だと語った。ファンも常日頃から酒井を、「マルセイユのサムライ」と呼んでいる。
昨シーズンの最終節だったか、ヴェロドロームで見かけたSAKAIのネーム入りシャツを着ていたファンも、「サカイは来シーズンも絶対に残って欲しい。いなくなられたら困るよ。彼はマルセイユに必要な選手だ」と力説していた。
4年目の今季、年長プレーヤーとしてマルセイユを支えることになるのか、新たなクラブでその価値を求められることになるのか。
酒井自身は、「自分をより高く評価してくれるところがあれば移籍もありうると思います。それがプロ選手ですから」と話すが、もし酒井がマルセイユを去ることになっても、酒井は、かつて所属したアルゼンチン人DFガブリエル・エインセのように、サポーターたちに懐かしく、恋しく、思い出される選手になるだろう。
(取材・文:小川由紀子【フランス】)
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