偉大なスタジアムで偉大な歴史を刻む
数多くのドラマを生み出してきたエスタジオ・ド・マラカナンでまた一つ、偉大な歴史が刻まれた。天高くトロフィーを掲げた主将ダニエウ・アウベスの姿は、今後も多くのブラジル国民の記憶に残り続けることだろう。
現地時間7日に行われたコパ・アメリカ2019(南米選手権)・決勝戦、ブラジル代表対ペルー代表の一戦。満員となったスタジアムで、開催国は圧巻の強さを発揮した。
開始からまもなくは、ペルーの鋭いプレスに苦しんだブラジル。攻撃の起点となるはずのアルトゥールやフィリッペ・コウチーニョらはレナト・タピア、ヨシマール・ヨトゥンらの対応に手を焼き、良い形で前線にボールを収めることができない。ロベルト・フィルミーノらもサイドに流れながら状況を変えようと試みるが、それでもペルーは隙を見せなかった。
ただ、個人での突破が光る場面はいくつもあった。たとえば左サイドのエベルトン。同選手がDF2人ほどを引き付け縦への突破を図ることで、中央のコウチーニョやフィルミーノといった選手が空きがちになる。そこを効果的に使って、人数をかけた攻めは少なからずペルーの脅威となっていた。
そして、その「個人技術」がペルーを崩したのは15分の場面。D・アウベスからの長いパスを受けたガブリエウ・ジェズスが右サイドでDF1人を外してクロス。これを反対サイドから内側に絞ってきたエベルトンが合わせ、ブラジルが待望の先制ゴールを挙げた。
前半15分という早い時間に試合を動かすことに成功したブラジルは、その後もペースを握る。ボールを保持しながら時間をかけてペルー陣内へ侵入し、そこから焦らず的確にブロックを崩そうとしていたのである。
しかし、ブラジルは44分にPKを与え、1点を返されてしまう。今大会初の失点を喫し、なおかつその時間帯は最悪。嫌な雰囲気が漂っていた。
それでも、そこで屈しないのが今のブラジル代表である。失点からわずか4分後にはアルトゥールからのパスを受けたG・ジェズスが冷静にゴールへ流し込み、2-1と再び勝ち越しに成功した。
存在感を放ったCBコンビ
今大会、圧巻の安定感を誇ったマルキーニョス(左)とチアゴ・シウバ(右)のCBコンビ【写真:Getty Images】
後半に入ってもブラジルは乱れず、リードを堅く守ったまま時計の針を着実に進めた。
ペルーはもちろん反撃に出てくるが、今大会わずか1失点のブラジル守備陣はなかなか崩れない。ペナルティエリア外から強引にシュートを放つしか手はなく、追加点の予感はあまりなかった。
一方ブラジルは70分にG・ジェズスが退場処分を受けるアクシデントに見舞われたが、後半ATには途中出場のリシャルリソンがPKを沈め3-1とペルーを突き放した。試合はそのまま終了のホイッスルを迎え、2007年大会以来12年ぶり9回目のコパ・アメリカ優勝を果たした。
大会直前にエースのネイマールが負傷で欠場を余儀なくされるなど、ブラジル代表のコパ・アメリカへ向けての状況は決して良いとは言えなかったはず。それでもチームを率いるチッチ監督は、若手とベテランをうまくまとめ上げ、頂点まで導いた。その手腕は見事だと言うべきだろう。
約1か月間続いた大会を振り返ってみても、セレソンには一切隙がなかった。エベルトンやアルトゥールといった若手が存在感を放てば、カゼミーロやアリソンといったロシアワールドカップ戦士たちも相変わらずのセンスを発揮。D・アウベスはベテランらしい圧巻の輝きを放ち、ウィリアンやアランといった控え組も少ない出場機会の中で存在を示す。まさに「チーム一丸」となっていた。
その中でも彼らのパフォーマンスは最も評価されるべきかもしれない。CBコンビのマルキーニョスとチアゴ・シウバである。
お互いに今大会すべての試合で先発出場を果たしており、最終ラインを見事に統率。試合の中で発揮される安定感は抜群であり、チャレンジ&カバーの判断やタイミングなどすべての面で大きなブレがなかった。カゼミーロの効果抜群のタックルやアリソンの好セーブももちろん1失点という強固な守備の要因に挙げられるが、守備の中心にいたのは彼ら2人であり、チームに落ち着きをもたらしたのも最終ラインで安定感を放ったこのコンビだ。
T・シウバは今大会でCBの選手としては断トツトップとなる平均パス成功率95%を記録し、マルキーニョスも同2位となるパス成功率94%を記録。T・シウバの総パス本数は349本、マルキーニョスは同367本である。CBというポジションはそれほど圧力をかけられないため、他のポジションよりパス成功率が上がるのは当たり前なのだが、それでも全試合で先発出場を果たしておきながらこの安定感を発揮できるのは見事の一言だ。
3年後のカタールW杯への課題
T・シウバはベテランらしく試合の中で高いリーダーシップも発揮。ペルー戦でも左サイドバックのアレックス・サンドロに手で指示を送りながらパスの出しどころを的確に提供するなど、攻撃面でも常に頼れる存在となった。
マルキーニョスもクラブではボランチを務めることも多いため、コパ・アメリカでもドリブルで前進し、中盤の位置でも勝負など攻撃面でもその存在を光らせた。さらにアルゼンチン戦では体調不良を訴え一度はピッチへ出るものの、ミランダとの交代を許可されるまでの間は、苦しい身体を起し守備に最後まで加担するなど強い「気持ち」も見せた。
このように、それぞれがそれぞれの良さを発揮した今大会であったが、彼らに共通している部分が一つだけ存在する。それはポジショニングの良さと危機察知能力の鋭さである。
そもそもこの二人の身長は183cmとCBの中では小柄な部類に入る。空中戦に弱いわけではないが、圧倒的な強さを発揮できるわけでもない。だが、二人は地上戦にめっぽう強く、そこで勝負できるのだ。
ブラジル代表の中ではサイドバックが上がった後のカバーなどの他に、カゼミーロの脇のスペースを埋める役割を課されている。コウチーニョとアルトゥールだけではカバーしきれないため、そこは自身のマークを外してでもチェックしに行かなければならない。だが、この担当は彼らに最適だ。鋭い危機察知能力を活かしてコパ・アメリカでは何度もカゼミーロの脇のスペースを埋め、相手を無力化。アルゼンチン戦ではそこを突こうとするリオネル・メッシを封じ、カゼミーロと二人で挟んで潰すこともできていた。
それは決勝戦のペルー戦でも同じ。事実、T・シウバはこの日チーム最多となる3回のインターセプトを記録するなど、役割をしっかりと果たしていた。このあたりの仕事ぶりも、ブラジルの堅守を支える一つの要因となっていることだろう。
とはいえ、ブラジルはこれをいつまでも楽観視するわけにはいかない。T・シウバは現在34歳。同じDFのD・アウベスは36歳、フィリペ・ルイスも33歳と守備陣の高齢化は進んでいる。とくに右サイドバック、D・アウベスの代わりとなる存在は、なかなか現れない。もうすでに始まっている3年後のカタールワールドカップへの競争へ、その課題はクリアしたいところだ。
(文:小澤祐作)
【了】