ポジティブな面がある一方で、ネガティブな面も
本田圭佑のアジアでの挑戦に1つの区切りが訪れようとしている。2019年5月、所属するオーストラリアAリーグのメルボルン・ビクトリーは本田の退団を発表。今後はかねてからの希望だったアメリカMLS(メジャーリーグサッカー)への参戦か、ヨーロッパへの復帰が有力視されている。選手としてのアジアでのプレーは一旦終えることになりそうだ。
ロシアワールドカップ終了後、本田圭佑の動向は日本だけでなく世界にも驚きをもたらした。2018年8月6日、メキシコのパチューカからメルボルン・ビクトリーへの移籍が発表されると、その6日後には突然カンボジアで記者会見を開き、同国の代表監督(※本田は指導者ライセンスを持たないため役職としてはGM)に就任することが発表された。現役選手でありながら他国の代表監督も兼任するのは前例がない。
果たしてこの挑戦をどう評価すべきなのか。区切りを迎えたとはいえ、白黒はっきりつけるのは難しい。カンボジア、オーストラリア両国で現地取材した感触としてはポジティブな面がある一方で、ネガティブな面も見えた。異例の「二足の草鞋」での挑戦を1つひとつ紐解いていきたい。
メルボルンプレーヤーとしての苦悩
メルボルン・ビクトリーではカンボジアとは異なり、目に見える結果を出した。10月20日、開幕戦となったメルボルン・シティとのダービーマッチで先発デビューを果たすと先制ゴールをマーク。やはりこの男は持っている。ケビン・マスカット監督は試合後に「素晴らしかった」と絶賛し、チームメイトからも「いいプレーだった」と非常にポジティブな反応を受けた。
本人のみ「得点を取れた嬉しさよりも残念な気持ちの方が正直大きい。これをベースにして、ここからスタンダードを上げていけたら」と反省の弁だったが、これは本田特有の向上心の強さ故だろう。
負傷による約1ヵ月の離脱があったものの、本田は圧倒的なパフォーマンスでチームを牽引。守備的MFのポジションから、ビルドアップのボールをもらい、攻撃を組み立てる。時折前線に顔を出せば、圧巻のキープ力を発揮し、チャンスを演出した。
だが、優勝を期待されたチームは苦戦。リーグ戦では3位に終わり、プレーオフでは準決勝でシドニーFCに1-6と惨敗。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)では1分5敗と散々な結果に終わった。
このチーム状況については、本人もかなりイライラしていたと思われる。試合後のミックスゾーンではメディア取材をスルーすることがほとんど。私が取材したときはいつも表情が強張っていた。
自身が運営する有料メールマガジンでは「キックミスのときもあるんですけど、これ行ったかなというときにも、そこに味方がいないんで。せっかくいいキックが行っているときに、いないってことだけは絶対に避けたい。そのチャンスを絶対に逃したくないんで。じゃあどういうときに点が入るのって話になってくるじゃないですか。いいキックが行ったときにはドンピシャっていう状況を絶対につくりたいわけですよ。それがないっていうのはメッチャ問題ですね。また言わんとダメですね」とチームに苦言を呈していた。
本田自身はリーグ戦18試合7得点5アシスト、プレーオフ2試合2アシスト、ACL4試合1得点と及第点だ。しかし、マーキープレイヤー(※年棒制限のない選手)としての期待感を考えると、やや物足りないだろう。チーム全体のレベルアップと勝利を求められていたからだ。
(取材・文:植田路生)
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