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日本代表 6年前

上田綺世が味わった「無力感」。外し続けた決定機…南米との対峙で得た唯一無二の感覚【コパ・アメリカ】

日本代表のコパ・アメリカ2019(南米選手権)が終わった。24日のグループリーグ最終戦でエクアドルと引き分け、決勝トーナメント進出の可能性が消滅。東京五輪世代中心で臨んだ森保ジャパンは敗退となった。そんな中で、決定機を外し続けて厳しい批判に晒されたのが上田綺世だ。チーム内唯一の大学生選手は、南米の地で何を感じ、示し、そして掴んだのだろうか。(取材・文:舩木渉【ブラジル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「この先絶対に忘れられない」悔しさ

上田綺世
上田綺世はコパ・アメリカ3試合に出場して無得点に終わった【写真:Getty Images】

「自分をさらに大きくする、一番大きいチャンスがきた」

 上田綺世は、コパ・アメリカ2019(南米選手権)に向けた日本代表招集を受けて燃えていた。現在、法政大学3年生。東京五輪世代中心とはいえ、現役大学生のA代表招集は約9年半ぶりだった。

「もちろん怖い部分もあるし、自分がどこまでできるかというのはわからない。でも、ぶっちゃけいつもやっているレベルとは比べ物にならないくらい高い中で、逆にそんなチャンスないなって。自分がどこまでできるのか、いつもわからない状況で探り探り上のレベルで戦っている中で、世界の一番高いレベルで(自分を)試せるというのは、自分がどこまでの選手なのかという現在地をはっきりさせる大会にできると思いますし、そうしてくる義務もあるし、それを必ず成し遂げて帰りたいなと思います」

 ブラジル入りしてすぐ、グループリーグ初戦のチリ戦を前にして上田は目を輝かせていた。いい意味で普段と変わらない。実にストライカーらしいメンタリティを持った選手で、ピッチに立てばゴールを奪うことに全精力を注ぐ。

 鹿島学園高校から進んだ法政大では1年次から出場機会を得て、2年次には全日本大学サッカー選手権大会優勝に大きく貢献。森保一監督からの信頼も厚く、昨年はアジア大会にも出場して、東京五輪世代では大学生ながらチームの中心的な存在でもあった。

 しかし、コパ・アメリカでは自らの力不足を痛感させられることとなった。日本は2分1敗でグループリーグ敗退。上田も初戦の先発出場を含む3試合すべてに出場しながら無得点。「自分が外して無力感を感じることも、たぶん日本にいたらない」とストライカーとしての責任を果たせなかったことにがっくりと肩を落とした。

「この大会で外したから、次の東京五輪までにはとかそういう形ではなくて、僕のサッカー選手のキャリアとして、コパ・アメリカで点を決められなかったこと、あれだけチャンスがあって、仕事ができなかった悔しさというのは、この先続いていくキャリアで絶対に忘れられないことになるし、自分が外して無力感を感じることも、たぶん日本にいたらない」

決定機を外し続けて…

上田綺世
上田綺世はエクアドル戦にも途中出場。3本のシュートを放ったがゴールネットは揺らせなかった【写真:Getty Images】

 初戦からチャンスの場面には多く絡んでいた。チリ戦はシュート3本、ウルグアイ戦では0本に終わったものの、エクアドル戦は約30分という短い時間の中で3本ものシュートを放った。A代表初キャップを刻んだチリ戦では「前回の南米、パラグアイに来たときはシュートを1本も打てないで終わっているので、そういうのを考えるとやっぱり南米の選手相手でもスピードの中でスペース見つけることができるようになっている」と昨年3月に行われた南米遠征からの成長も実感していた。

 だが、「それをできるようになっても結局は決まらなければ意味がない」と本人が語ったとおり、決定的なチャンスでことごとくフィニッシュの精度を欠いた。

 勝てば決勝トーナメント進出だったエクアドル戦。上田は1-1の状況でピッチに送り出された。期待されるのは当然、勝ち越しゴールだ。最初のチャンスは67分、自らポストになってからゴール前に走り込み、相手ディフェンスの間にできたわずかなスペースで久保建英からのラストパスを受けたが、シュートはブロックされた。

 さらに直後の69分、今度は左サイドの杉岡大暉が上げた速いアーリークロスに対し、相手センターバックの間に入り込んだ上田が右足を伸ばす。このシュートはミートできず無情にもゴールの上へと逸れていった。

 最後のチャンスは90分、前田大然のシュートのこぼれ球が目の前に転がってきたものの、これも枠を捉えられない。快足の前田の動きにつられた相手DFたちの視界の外に動き、マークを外すまでは完璧だったのだが……。

「あれを決めてチームを救える存在がそこにいるべきだったし、僕の力が足りなかった、それだけのことです」

 救世主になりきれなかった悔しさが頭の中を駆け巡る。FWは何よりもゴールという結果が重要。決めれば溢れんばかりの賛辞を受け、決められなければ批判に晒される。そのことを生粋のストライカーである上田は、誰よりもそのことを理解している。

「日本の責任を背負って戦うポジション」

 ただ、ネガティブなことばかりではない。確かに決定機を逸した回数はデータ上「5回」もあるが、普段は関東大学リーグ1部でプレーしていて、プロとしての実績が全くない世界的には無名の若手選手が、いきなりコパ・アメリカという南米最高峰の舞台で「6本」ものシュートを放ったのだ。日常とのクオリティの差に戸惑ってもおかしくない中で、これだけの数のチャンスを作れたことは驚異的と言う他ない。

 ストライカーとしてのポテンシャルの高さは世界に示した。

 上田は3試合の挑戦を終えて改めて「よく言えば、この環境で、これだけチャンスを作って、自分のストロングポイントで勝負すること、客観的に見たチャンスもあった。このタイミングで(コパ・アメリカに)出て、自分の力不足を知れたことはよかった」と振り返る。悔しさをかみしめながら、すでに頭の中を切り替え始め、次の試合へ、次の舞台へと視線を移していた。

 ストライカーとしてのメンタリティは、彼の人格形成や選手としてのあり方に大きく関係している。昨年のアジア大会で「やっぱりFWの良さってチームを勝たせられることだと自分は思っているんです」と言った後、日本代表のユニフォームを着て前線に立つことの意味と、自らの姿勢について力強い言葉で語っていたのをよく覚えている。
 
「その反対にチームを勝たせられなかった時に責任が問われる。チームだけではなくて、今は日本を背負って戦っている以上、日本の責任を背負って戦うポジションだと思っているので、やっぱり1つひとつのチャンスをモノにできなければいけないし、決められなかったら次、次、と切り替えて、どんどんシュートを打って、決まるまで打てばいい」

上田綺世が示した大きな可能性

上田綺世
上田綺世はポテンシャルの高さを南米相手に示した【写真:Getty Images】

 ゴールはシュートを打たなければ決まらない。上田は今回のコパ・アメリカでの経験を糧に、もっともっとシュートを打って、ゴールを決めて、成長していくはずだ。本気の南米を相手にしても、動き出しの鋭さや駆け引き、シュートまで持ち込む体勢の作り方、味方からのボールの引き出し方が通用する姿は見せた。あとは決めるだけだ。

 すでに2年後の鹿島アントラーズ入りが決まっている“A代表ストライカー”は、ゴールこそ決められなかったが、シュートを放つことで潜在能力の高さを証明したのである。彼ならこれで腐ることはなく、悔しさを力に変えて進化を続けていくはずだ。

「『プロとの違い』とか、『大学生だから』とか、言われるかもしれないですけど、そういう風に言われるのはすごく嫌で。絶対プロにも負けたくない。プロ以上の得点能力をもっと磨いて、東京五輪に臨みたい。誰よりもゴールを決めたいという思いは強いと思うので、そういうところで、むしろ大学生だからこそ、『プロより』と言われたいなと常に考えています」

 ちょうど1年前に、上田は「プロ」を超える「大学生」になると鋭い眼差しで誓っていた。

「日本代表として同じチームでありながらも、それぞれ自分の価値を上げるために来ているわけですし、そこには年齢もキャリアも関係なくて、僕は僕でそこに立ち向かっていかなきゃいけないし、日本代表チームとしても戦いながらも、チーム内のそういった個人のキャリアとしての戦いも勝っていかなければいけないと思っています」

 1年経って、ブラジルで「日本代表」として、トップレベルに挑むチャンスを得た。結果的に選手としての価値が上がったかと言われれば、ゴールを決めていないので判断は難しい。だが、新世代のストライカーとして大いなる可能性を示したのは間違いない。できればプロの舞台で活躍する姿を早く見てみたい。そして、再びサムライブルーのユニフォームをまとって戦う時に、どんなに成長した姿を見せてくれるか楽しみだ。

(取材・文:舩木渉【ブラジル】)

【了】

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