日本代表初スタメン。三好がウルグアイから2発
試合を前に昼間からビールを流し込み、街中で大合唱。ウルグアイからやってきた大勢のサポーターたちは、「今日は俺らが勝って当然」な雰囲気を作り出していた。ポルト・アレグレの街を歩けば、すれ違うのはほとんどウルグアイ人。これぞ本物の南米のアウェイゲームだ。
スタジアムでも水色をまとった威勢のいい老若男女の声援が、360度こだまする。日本代表の選手たちがウォーミングアップに出てくるだけで大ブーイング。ワールドカップなどでおなじみになりつつある、ウルグアイの全力国歌斉唱には鳥肌が立った。
しかし、試合が終わる頃にはその声援もほとんど聞こえなくなった。ほとんどが東京五輪世代の若手選手で構成された日本代表と、2-2のドロー。南米制覇の最有力候補と見られ、本気のメンバーを並べていたウルグアイ代表にとって想定外の勝ち点の取りこぼし。サポーターたちの帰途につく足どりはさぞ重かったに違いない。
3日前のチリ戦で0-4の惨敗を喫した若き日本代表には、悲観的な見方もあった。ところがウルグアイ戦までにチーム全体で練習する機会が一度しかなかったにもかかわらず、森保一監督は見事な修正力を発揮。スタメンを6人変更しつつ、攻守がバランス良く整理された戦いで優勝候補から貴重な勝ち点1をもぎ取って見せた。
マン・オブ・ザ・マッチに輝いたのは、三好康児だった。初戦はスタメンから外れていたが、ウルグアイ戦では右サイドMFとして先発起用されて2ゴールの大活躍。攻守に獅子奮迅の働きで、文句なしの受賞だ。
試合を終えて取材エリアに現れた三好は、マン・オブ・ザ・マッチのトロフィーを脇に抱えていた。
「こういう舞台で結果を残せるのは嬉しいことですし、それだけの準備をしてきたので、まずは報われてよかったですけど、これを先に繋げたいので満足はできないですし、これから次の試合に向けてもう一度整理していければいいのかなと思います」
持ち味が詰まった代表初ゴール
ワールドカップと質も強度も変わらない大舞台で2得点という結果を残しても、浮かれた様子は一切ない。試合を終えてすぐの状態でも次の戦いに向けて意識を向ける。これこそが三好らしさであり、彼が彼なりの道筋で成長を遂げてきた証左でもある。
特に24分に決めた1点目には、試合の流れを引き寄せるだけでなく、三好というアタッカーの魅力がふんだんに詰まっていた。
日本は左サイドでのスローインを起点に、柴崎岳がロングフィードで広大なスペースのある右サイドへ展開する。そのパスをトップスピードのままコントロールした三好は、一気にペナルティエリア内へ。そして対面のディエゴ・ラクサールが追いついてくると、急減速から再び一気にギアを上げて縦に突破。最後は右足を振り抜いてシュートをゴール右隅に突き刺した。
チャンスになりそうなスペースにポジションを取る感性、ボールコントロールの正確さ、相手の動きを見極めたドリブルの緩急、そして利き足ではない右足での思い切ったシュート。これまで三好が培ってきた技術や戦術、思考といった様々な要素がここぞで全開放された。
「相手が前に圧力をかけてきた後、ボールを奪えば、サイドは空くとイメージしていましたし、そこはうまく(柴崎)岳くんと合わせて、ボールを受けることができたので、狙い通りでした」
「点を取る前に、左に切り返して、大きく外れたんですけど、その時に1本左で(シュートを)打っておいたことによって、少し相手も左を警戒してきたと思いますし、それで相手も(寄せに)来なかったので、そうしたら右でいけるぞというところで、イメージ通りに持っていけました」
伏線はゴールの約10分前にあった。柴崎からのパスを右アウトサイドで受けた三好は、縦を警戒してケアしてきたラクサールの逆をとって左に切り返し、ペナルティエリア右角から左足でミドルシュートを放った。これは確かに大きく外れたが、左利きで遠目からのシュートが選択肢にあることを相手左サイドバックに意識させるには十分な一発だった。
「基本は自分の前にいた相手に対してどう持っていくかというところと、ゴールの位置から自分がどこにいて、どういうシュートを打てばいいかというのをイメージしていましたけど、中の状況も確認しながら、シュートにいくのか、クロスを上げるのかというところで判断しました。そこはうまくゴールに運べたのかなと思います」
銀メダルのアジア大会から1年…輝いたのは南米で
直前から左太ももを気にしていて自分の緩急についてこれなかったラクサールの対応と、その1対1を見てカバーに入らなかった左センターバックのディエゴ・ゴディンの立ち位置、GKのポジショニング。トップスピードでドリブルに入りながらも、三好の目にはしっかりとゴール前における相手の細部までが見えていた。
今の三好は、間違いなく本来のメンバー構成のA代表にも絡んでいける実力を備えている。だが、この境地に達するまでにはいくつもの壁にぶつかり、その度に乗り越えてきた。U-15時代から世代別代表に招集され、2013年にはU-17ワールドカップでベスト16を経験。
とはいえ同様にベスト16入りを果たした2017年のU-20ワールドカップで、三好は4試合中3試合に先発しいずれも途中交代だった。左サイドで果敢に仕掛けるも、相手の長い足が伸びてきてどうしても引っかかってしまう状況で、個の力だけでは世界を相手に通用しなくなってきていたことを痛感させられた。
その後、森保監督が就任した東京五輪世代の代表にも継続して招集されていたが、2018年のアジア大会では10番キャプテンを任されながら、負傷の影響で決勝トーナメントは満足なプレーを見せられず。チームも決勝で韓国に屈して銀メダルに終わった。
日韓戦の前日記者会見で「自分たちにとっては大きなチャンスで、僕たちがこれから先のサッカー人生をより良くしていくためには、こういった大きな舞台で活躍することが先につながると思っている」と語ったが、悔しすぎる延長戦の末の敗戦。
試合後に「結果として銀メダルが現状なので、そこは結果というのを真摯に受け止めなければいけないと思いますし、これが自分たちと今の韓国の力の差だと感じた。これから先、自分たちが目指すところでは年齢なんて関係ないと思っているので、この悔しさは先につなげるしかない」と唇を噛んだ。
「この悔しさを味わったのは僕らしかいないですし、この悔しさを晴らせるのも僕らしかいない」と誓った、あのアジア大会決勝から約1年。三好は当時のチームメイトも多くいる中で、ひときわまばゆい輝きを放った。日本代表の歴史に名を刻んだと言っても過言ではない、年齢も関係ない、本気のウルグアイ相手の2得点だった。
日々の努力が実ったウルグアイ戦、そしてその先へ
それだけの活躍を見せても、気が緩むことは一切ない。さらに次へ、次へ。目の前に広がる未知の世界を楽しみながら、視線は常に先を見据えている。
「自分の歩んできた道は間違いじゃなかったとは常に思っていますし、こういった大会で結果を残していくことが逆にそういった証明になると思うので、本当に1試合だったり、ワンプレー、ワンプレーを大事にして、こういう舞台なので楽しんでやりたいなという気持ちが強いです」
川崎フロンターレの下部組織からトップチームに昇格したものの、風間八宏監督や鬼木達監督の下では主力に定着しきれず。2018年に期限付き移籍した北海道コンサドーレ札幌ではミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下でドリブラーのイメージが強かったスタイルから殻を突き破り、継続性を身につけてキャリア最高の活躍を披露した。
今季はさらなる出場機会と成長を追い求めて横浜F・マリノスに期限付き移籍し、序盤戦はチームの核として古巣のライバルをけん引。スペースの効果的な使い方、常に前を向こうとする姿勢、立ち位置にとらわれない幅広い動きは試合を重ねるごとに研ぎ澄まされている。
ウルグアイ戦でも右サイドを根城にしながら、内にも外にも自在にポジションを取って相手の隙となるスペースを狙い続けた。「自分がどううまく受けられるか、受けたときに前を向けるか、というのを相手を見ながらポジション取りしていましたし、あとは相手の前に入りすぎると球際が強いので、そこはタイミング見て、自分が受けられるスペースを空けておいて、タイミングで入っていくとかそういう工夫はしました」と語るが、見た目の印象の通り、三好のプレーはマリノスで日々取り組んでいる動きを日本代表仕様に応用したものだった。
ピッチ上のプレーからも、言葉の端々からも賢さがにじみ出る。何が良くなかったのか、どうすればより成長できるのかを常に論理的に思考し、次の一歩を踏んでいく。地道な努力を1つひとつ積み重ねた結果が、日本代表デビュー2戦目での2ゴールだった。
「東京五輪世代とか関係なく、コパ・アメリカで活躍してやろうという思いは全員が持っていると思いますし、それは自分も同じものを持ってこの大会に挑んでいます。日本代表として(国を)背負ってこの大会に挑んでいるので、そこは代表選手として戦わないといけないと思いますし、個人としては全員がチャンスだと思って戦っているので、そこは自分も同じ思いで今日も戦っていました」
三好の器の大きさは底知れない。アジア大会以上に大きな舞台で、人生を変えかねない輝きを放った。ひょっとしたら近い将来、活躍する場はマリノスでもフロンターレでもなくなっているかもしれない。世界へ飛躍する姿を想像できる、伝説的なパフォーマンスで三好は日本代表に希望の炎を灯した。
(取材・文:舩木渉【ブラジル】)
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