カタールの守備の工夫
カタールは4バックを採用した第1節パラグアイ戦からシステムを変更し、5-3-2の布陣でコロンビア戦に臨んだ。理由としてはやはり守備面の安定のためだろう。このシステムであれば、コロンビアの4-3-3と完全にかみ合うことになる。2トップで相手の2CBにプレスをかけ、相手の両SBに対してはウイングバックがマークにつく。そして中盤の枚数は3人で同数であり、3トップに対しては3バックでマークするのだ。
このカタールのマンマーク気味の守備が機能した。開始直後の5分こそ少しバタつく場面もあったが、落ち着いてからの守備は堅かった。コロンビアはビルドアップの場面で出しどころを見つけることができず、次善の策としてのロングボールを蹴ることが多くなる。時折ジェリー・ミナが、3センターに対して縦パスを入れることもあったが、マンマーク気味の守備が機能しているため、前を向いて決定機を作ることができない。
安全なパスを繋いで、時間をかけて押し込んだとしても、その頃には両ウイングバックが最終ラインまで引いて5バックを形成している。ボックス付近にはスペースがない。
その場合、カタールはミドルスペースを3枚の中盤でケアしなければならないのだが、彼らがハードワークして広大なエリアをカバーしている。特にアッシム・マディボは非常に優れた守備的MFで、危険なシーンには必ず顔を出していた。
また2トップの一角であるアクラム・アフィーフもここぞという場面でプレスバックするため、強固な守備ブロックが形成されている。気づけば前半30分頃までコロンビアは崩し切る形を作れないまま試合が進んだ。
前半は両チーム共に守備が機能する展開
一方のコロンビアも、カタール同様に、マンマーク気味にプレスをかけていたため、ほとんど決定機を相手に与えない。カタールの3バックに対して、3トップがコースを消しながら高めの位置からプレスをかけることで、カタールにろくにビルドアップさせず、雑に蹴らせることに成功していた。つまり前半はお互いに蹴りあう時間が長かったのだ。
その流れでボールを握ったのはコロンビアだ。その理由はCBのキャラクターにある。単純な蹴りあいでいうと、プレミアリーグに所属するトッテナムのダビンソン・サンチェス と、エバートンのミナは最強だ。空中戦の強さはいうまでもなく、高い最終ラインの裏のスペースにロングボールを蹴られても余裕で追いつくスピードもある。
コロンビアも攻め込むことはできていなかったが、カタールは押し上げることすらままならない状態だった。
コロンビアの対抗策とは
ただそのカタールの守備ブロックをコロンビアは徐々に攻略し始める。鍵となったのはハメス・ロドリゲスの存在だ。
カタール代表の左WBアブドゥルカリーム・ハサンが非常に推進力のあるタイプのためか、動き過ぎて守備面で足を引っ張ることもあるハメスはこの日は逆サイドの左ウイングとして出場した。
序盤こそきちんと左サイドの位置にいたコロンビア代表のエースだが、徐々にピッチのあらゆる場所に顔を出し始める。30分過ぎた頃には得意の右サイドにも顔を出すようになり、34分に行われたVARの後には完全に右ウイングとしてプレーするようになった。ただこの自由な動きはカタールの守備を少しずつ揺さぶっていた。
また右サイドでプレーするようになってからは、守備の場面では右ウイングとしてプレーしつつ、攻撃の場面ではトップ下に入り、中盤のフアン・クアドラードが右ウイングの位置に入るようになった。この変則的なポジショニングは、ハメスの視野の広さやパスセンス、本来ウイングの選手であるクアドラードの推進力を生かす結果になっていた。計画的な動きかどうかはわからないが、少なくとも攻撃面においては効果的だった。
結局、試合を決めたのは個の力
その後、ハメスがリズムを作りながらカタールに攻め込むが、カタールもカタールで前述の守り方で集中してプレーしているため、簡単には失点を許さない。49分にはコロンビアにPKが与えられる場面もあったが、結果的にはVARでその判定も取り消される。
どうしても得点が欲しいコロンビアは、64分にクアドラードを下げて、ラダメル・ファルカオを投入。システムを4-4-2に変更し、前がかりになって攻める。
ただカタールも後半に入ってから少しずつ攻め込み始める。ハメスがいることでカタールの左サイドの守備が甘くなったので、左ウイングバックのハサンが推進力を生かし始める。ただし、やや強引な攻めだったこともあり、決定機には至らない。
均衡する典型ではあったものの、最終的にはコロンビアがカタールの守備ブロックを攻略することに成功する。起点となったのはもちろん、ハメス・ロドリゲスだった。
86分、コロンビアが左サイドからボールを運び相手を押し込むと、ハメスは逆サイドのハーフスペースにポジションをとってフリーになる。すると中央でボールを受けたファルカオから横パスが回ってきた。
右足でワントラップすると即座に左足のアウトサイドキックで内巻きのアーリークロスを送ると、そこに上背もあるサパタが飛び込んだ。アタランタ所属のストライカーのヘッドは見事ネットを揺らし、非常に価値の大きい先制点を決めた。ハメスのパスセンス、サパタの強さによって生まれたゴールだった。
試合はそのまま終了して1-0で終了。最終的には個の力でコロンビアは勝ち点3を掴んだ。
カタールとしてはよく守っていただけに、悔しい結果になったといえる。ただこれもサッカーだ。一方のコロンビアとしてはエースとストライカーの活躍で勝ち点3をゲットし、決勝トーナメント進出を確定させた。苦しい展開を制す試合は、チームに勢いをもたらす。コロンビア代表の躍進は期待できるかもしれない。
(文・内藤秀明)
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