旧態依然とした治療なら即刻クビだ
ウナイ・エメリ体制の一年目は5位。優勝したマンチェスター・シティに28ポイント、2位リヴァプールにも27ポイントの大差をつけられた。
3位チェルシーと2ポイント、4位トッテナムとは1ポイント差だったため、「あの戦力を踏まえればよくやった方だ」とガリー・ネビル(解説者・元イングランド代表)あたりはそこそこ評価していたが、アーセナルともあろうクラブが5位に納得してはいけない。タイトル争いからの早期撤退を余儀なくされた要因を探り、いちはやく改善すべきである。
負傷者の続出やアウェーの脆さは、アルセーヌ・ヴェンゲルが退任した後も重くのしかかった。
エクトル・ベジェリン、ロブ・ホールディング、ダニー・ウェルベックの長期欠場は、エメリのプランを狂わせた。
エインズリー・メイトランド=ナイルズとシュテファン・リヒトシュタイナーは、ベジェリンと並び称されるような器ではない。ホールディングの負傷によって3バックが頓挫し、ウェルベックの不在は前線のローテーションに少なからぬ影響を及ぼした。仮に彼ら3選手がもう少しピッチに立っていたら、4位以内を確保できた公算が大きい。いや、勝負に“たられば”は禁物だ。ここに逃げてはいけない。
体制移行後も、アーセナルは負傷者が減らなかった。リハビリテーションのメニューが間違っているのか、選手が真剣に取り組んでいないのか、トレーニングセンターになんらかの不備があるのか……。問題の真相を究明する必要がある。
監督、コーチが入念にゲームプランを組み立て、選手たちの才能が十分だったとしても、負傷者の続出はすべてを台無しにする。メディカルチームが一定のレベルに達していないのなら、旧態依然とした治療を続けているのなら、即刻クビだ。選手たちが安心できる環境を整えなければならない。
なんとなく守っている敵地での姿
本拠エミレーツを離れると7勝4分8敗。昨シーズンの4勝4分11敗に比べれば進歩したものの、レスターに、ウォルヴァーハンプトンに、ワトフォードに、そしてサウサンプトンにも敗れている。アウェーの順位はリーグ全体で8位。由々しき問題である。
相手ボールの際の約束事は、監督が代わっても曖昧なままだった。プレスバックを惜しまないのはアレクサンドル・ラカゼットだけで、危ないシーンで身体を投げ出せるのはルーカス・トレイラやローラン・コシェルニーなど、数は限られている。
セアド・コラシナツは試合の流れに関係なく無謀な攻撃参加を繰り返し、クロスを対戦相手にぶつける。シュコドラン・ムスタフィは自分のミスを責任転嫁。1点のビハインドを背負った際は、さらに点差を拡げられた際はどのようにして対応するか、徹底しなくてはならない。なんとなく守っているような印象が、アウェーのアーセナルにはある。
そう、なんとなく……。
今シーズン限りで引退したペトル・ツェフのコメントに耳を傾けてみよう。
「アーセナルは十分なプレッシャーがない。ヴェンゲルは負けず嫌いだったけれど、つねに紳士的に振る舞った。でもチェルシーは違う。引き分けたり、負けたりした後のロッカールームは、まるで葬式のような雰囲気だった」
エメリも次のように語っている。
「アーセナルの選手たちは敗北に伴う痛みをもっと感じなければならない」
勝負師として最低。意識改革は不可欠
勝負の世界では敗北を受け入れる覚悟が必要だ。しかし、容認できるものでもないはずだ。負けた後もヘラヘラしていたり、怒りや情けなさを感じなくなっていたりしたら、そのうちに勝てなくても平気になる。勝負師として最低だ。
いつの間にかアーセナルはなんとなく試合に入り、なんとなく終えるような感覚に慣れてしまったのではないだろうか。負けても、重大なミスを犯しても叱責されないのだから、緊張感や厳しさは欠如する。公の席で声高に批判するジョゼ・モウリーニョ(前マンチェスター・ユナイテッド監督)のやり方は論外だが、責任の所在だけは明らかにしなければならない。
要するにアーセナルは《意識改革》が必要だ。ぬるま湯につかっているような現状を否定し、勝負に執着する。ピッチ上やロッカールームで言い争いはあってしかるべきだ。マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は細部にわたって厳しく、リヴァプールのフィルジル・ファンダイクは遠慮せずにユルゲン・クロップ監督にも意見する。彼らに比べると、アーセナルは甘い、甘すぎる。
補強費に限りがあるため、今夏の移籍市場で大物は獲得できない。しかしベジェリン、トレイラ、ラカゼット、そして18/19シーズンの得点王に輝いたピエール=エメリク・オーバメヤンなど随所に優れたタレントを擁しているのだから、チャンピオンズリーグ出場権獲得は最低のミッションだ。
そのためには監督、コーチ、スタッフ、選手の一人ひとりが厳しさの意味を知ることだ。ぬるま湯につかっていては、毒素も出ない。
(文:粕谷秀樹)
【了】