時は流れて「過去」から「未来」へ
新体制になった横浜F・マリノスの2018シーズンは、残留争いに巻き込まれる苦しい1年となった。だが、アンジェ・ポステコグルー監督は一切ブレなかった。いくら負けが続いていても「我々はやることは変わらない」と攻撃的な姿勢を貫く。選手たちも「『ただの苦しいシーズンだった』で終わらせたくない」と必死に食らいつき、新しいプレースタイルを磨いた。2年目の今季になって、これまで蒔いてきた種がようやく芽吹き、花をつけようとしている。
「過去と現在、そして未来がつながっていないと意味がない。優勝をするようなチームでも、苦しい時期を経て強くなっていくものだと思います。それが昨年だったのかもしれないし、それはもうこれからの結果でしか証明できない」
喜田拓也の言葉は力強かった。今季から8番を背負う彼は、2013年の新潟戦も、川崎F戦も、天皇杯優勝も知っている数少ない1人だ。時は流れ、多くの選手が入れ替わり、喜田もプロ7年目でキャプテンを任されるまでになった。
あの新潟戦に出場していたメンバーで、今のチームに残っているのは栗原勇蔵くらい。当時絶対的だった屈強なセンターバックも35歳になり、年々出番を減らして今季はYBCルヴァンカップに出場するなど「俺もアピールしなきゃいけない立場」と自覚するようになっている。
チームの象徴だった中澤佑二は左ひざの怪我もあって昨季限りで現役引退。中村俊輔や齋藤学などもマリノスを去り、中町公祐は夢を追ってアフリカに旅立った。サッカーが時代とともに変化するように、クラブも時の流れに抗うことはできない。
それでも喜田が言うように「過去と現在、そして未来がつながっていないと意味がない」のだ。過去から何を学び、現在をどう過ごし、未来にどんな希望を見い出すか。マリノスはこの数年、理想と現実の狭間でもがいてきた。もちろん中澤らが誇示してきた守りのアイデンティティは現在のチームにも受け継がれて脈々と生きている。そこに煮えたぎるマグマのような攻撃のエッセンスが注ぎ込まれた。