パス成功数はイニエスタ超え
引き分けに終わったが、Jリーグで90分間があれほど短く感じた試合を見た記憶はほとんどない。手に汗握る展開とは、まさに13日に行われた明治安田生命J1リーグ第7節・横浜F・マリノス対名古屋グランパスのことを言うのだろう。
お互いに「やりたいこと」を貫こうとするスタイルで、確かに90分間やりきった。序盤の8分に名古屋が攻勢をかけてジョーのPKで先制し、20分にはマリノスがマルコス・ジュニオールの2試合連続となる今季4点目で追いついた。
その後は一進一退の攻防が試合終了まで続き、両チームともあと一歩の決定機を何度も作った。そんな強度の高いゲームなら誰もが必死に走り回るように見えるものだが、1人だけ異質な雰囲気をまとい、飄々と効果的なプレーを連発している選手がいた。ジョアン・シミッチである。
今季から名古屋に加入したブラジル人MFは、現在25歳。名門サンパウロの下部組織出身で、ブラジルU-20代表招集経験もある。来日前は期限付き移籍していたポルトガル1部のリオ・アヴェで主力として活躍しており、レンタル元のイタリア・セリエAのアタランタから改めて名古屋に移籍する形で日本にやってきた。
移籍加入の発表は2月6日だったため、プレシーズンも沖縄での2次キャンプの途中から合流する形に。Jリーグ開幕まで短い時間しか残されていなかったが、瞬く間に信頼を獲得して現在はリーグ戦全試合フルタイム出場中だ。
「まず何よりもチームに入った時に温かく迎え入れてくれたのもすごく大きいし、やはり風間監督が求めているサッカーも、自分がこれまでやってきたサッカーにも似ていたから」と、素早く名古屋に順応できた要因について語るJ・シミッチは、すでに“順応”以上の傑出したパフォーマンスを披露している。
サッカーの様々なデータを扱うウェブサイト『Sofascore』によれば、J・シミッチは7節を終えた時点で595本のパスを成功させている。これは畠中槙之輔やアンドレス・イニエスタらを抑えて堂々のリーグ1位。そしてセントラルMFという難しいポジションにもかかわらず、パス成功率も88%という非常に高い水準を維持しているのだ。
本人も「風間(八宏)さんのサッカーは攻撃的で、常に試合をコントロールする。そこの見方は習得できた」と手応えを感じている。ボールを止める・蹴るの基礎技術が高く、特に左足のパス精度は長短問わず抜群で、相手の狙いを外す動きにも長けている。風間サッカーにこれほど適した人材は、なかなか見つからないだろう。