「なぜマンチェスターを出ないのかはわからないが…」
ヒッチハイクを試みる。ドルトムントの練習場の最寄り駅に着いたが、トレーニングの開始時間には間に合いそうにもない。男を掴まえた。ちょうど良くドルトムントファンだった。こちらが「BVB」という単語を口にすると、自然と笑みがこぼれる。2014年1月29日、いつもは非公開のトレーニングが、珍しく公開された。
――シンジ・カガワを覚えている?
「もちろん」
当然のことながら車中では、香川真司のことが話題になった。
「戻ってきてくれるといいんだけどね。今、マンチェスターで試合に出ていないだろう?でも、今年の冬の移籍はないみたいだな。なぜマンチェスターを出ないのかはわからないが…。まあ、次の夏だね」
男は笑みを交えながら、願望を口にした。しかしそうした思いを抱いているのはこの男だけではないだろう。未だに香川の復帰を願うドルトムントファンは存在する。
2014年3月19日、CL決勝トーナメント第1戦2ndレグ、ドルトムントはホームにゼニトを迎え撃つ。サンクトペテルブルクのアウェイを4-2のスコアで折り返したドルトムントは、余程のことがない限り次のラウンドへと駒を進めると見られていた。ゼニトは監督スパレッティを解任し、この試合は暫定的にセマクが指揮を執る。主力のアルシャビンも怪我で欠場した。
しかし先制ゴールを奪ったのはゼニトだった。16分、右サイドでフッキがボールを受ける。ケールが対応したが、フッキは中央へと突き進む。サヒンも振り切ったフッキは、ミドルレンジから豪快に左足を振り抜いた。バイデンフェラーの手をかすめて、ボールはネットに突き刺さった。