いつも紙一重。肉体と心理のぶつけ合い
セットプレーで対峙して嫌だったのは中澤佑二選手でした。経験が豊富で、彼も立ち位置のことをよく理解していたので、私が中澤選手の背中を取ろうとしても、細かくステップを踏んだり体を当てたりして、それを阻んできました。
逆に、私が守る側の時には動き回ってなんとか私の前か後ろにずれてボールを呼び込もうとしてきました。私は「大事なのはキッカーが蹴る瞬間だ」と言い聞かせて、動きに惑わされないように冷静に対応しようと心がけたものです。
中澤選手とは何十回と対戦をしてきて、セットプレーの数も相当な回数を戦ってきたと思いますが、結局、私が鹿島に入ったばかりの頃にお互いが1~2回得点しただけで、それからはどちらもゴールを奪えなかったと記憶しています。相手が準備できていない時に飛び込んでみたり、相手の心理を読んで動きを変えてみたり、お互いいろんなことを仕掛けましたが、なかなか難しかったのが本音です。
お互いがお互いをよく知った上でのセットプレーの駆け引きはいつも紙一重の連続でした。得点こそあまり生まれませんでしたが、中澤選手との対戦はいつも楽しみで怖いものでした。
対戦が楽しみで、怖い相手というと、田中マルクス闘莉王選手もその一人です。ただ、中澤選手とは駆け引きのタイプが全く違いました。
闘莉王にしかできない芸当。その戦法とは?
闘莉王選手は人についていくのをあまり好まないので、私のマーク役の時でもほとんど私に体を当てようとしてきませんでした。私のポジションを確認したら、だいたいのポジションを取って、真ん中で豪快に待ち受けます。マークを外していることは気にも留めない様子で、いつもボールをはじき返すことに徹していました。
私はそれを出し抜こうと、彼の背後でフリーで待ったり、ニアに大きく動いたりしてフリーにこそなるものの、なぜか闘莉王選手と対戦するときは私のところにボールが飛んできませんでした。闘莉王選手は落下地点を読むのが非常に速いので、多少マークを外してもボールへの反応で勝負していたのだと思いますが、その割り切り方は私や中澤選手にはできない芸当でした。
闘莉王選手が攻め、私がマークにつくときも同様です。ボールが来る前に、駆け引きなるものは一切入れません。それが彼流の駆け引きとも言えたのでしょうが、一切予備動作を入れずにボールに飛び込んでいきます。
それでも抜群の高さ、強さに加えて落下地点の読みの速さを持っていることから、闘莉王選手はたくさんのゴールを重ねていました。しかし、私は彼のその入り方には、立ち位置と当たるタイミングを心得てから対処していたので、セットプレーからはほとんどゴールを取られなかったと思います。
それよりも、クリアした後の二次攻撃やショートコーナーなど、タイミングを見計らえずに対峙しなければいけない時が一番怖い相手でした。
(文:岩政大樹)
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