J2の「ピルロ」。現代サッカーでは希少な存在
フィールドに「ピルロ」がいた。
ディフェンスラインの前に立ち、ボールを預かっては短いパスで組み立て、ときには長いパスで敵の急所を刺す。アンドレア・ピルロに代表されるディープ・ライング・プレーメーカー、現代サッカーでは希少種だ。
レノファ山口のキャプテン、三幸秀稔は希少種の1人である。
プロ選手に「上手い選手」について聞くと、多くは「止める・蹴る」の能力だと言う。ワンタッチコントロール、インサイドキックといった基本中の基本ともいえる技術にこそ、絶対的な差が宿るということらしい。三幸は「止める・蹴る」に関して抜群といっていい。J1でも彼の水準にある選手は少ないと思う。インサイドキックはボールに対してきれいに直角に面を作る。ロングボールを蹴っても真っ直ぐにバックスピンがかかっている。ここまで癖のない球筋は珍しい。
珍しいだけに見覚えがあった。本人に直接確認したら、やはりそうだった。三幸とは草サッカーで一緒にプレーしたことがあったのだ。彼から何本かパスをもらっていた。あまりにも受けやすい、きれいなパスだったので印象に残っていた。ただ、そのときは彼がプロ選手だとは認識しておらず、たぶん紹介はされていたのだが、他にも何人か元プロがいたので名前も覚えていなかった。ただ、球筋だけを覚えていた。
50歳を過ぎたオッサンである私と、三幸のようなプレーヤーが同じチームで草サッカーをしていたのは不思議に思われるかもしれないが、そのときの三幸はプロというより元プロで失業中だった。JFAアカデミー福島の1期生、ヴァンフォーレ甲府で2シーズン、J3のSC相模原で1シーズン、その後に所属クラブがなくなりJリーグ合同トライアウトも受けている。草サッカーはちょうどそのころだった。