全てを順調にさせたエースの残留
今夏の移籍市場で最も大きな成果となったのは、アントワーヌ・グリーズマンの残留である。シーズンオフには毎年のように移籍の噂が流れ、今年はバルセロナへの移籍が濃厚とする報道もあったが、ワールドカップ前にクラブへの残留を宣言し、騒動を収束させた。
現在のサッカー界ではクリスティアーノ・ロナウドとリオメル・メッシに次ぐ力を持つアタッカーだけに、クラブに与える影響は大きい。ディエゴ・シメオネ監督のもと、高すぎるほどの守備強度で昨季もわずか22失点というチームの中で、グリーズマンの攻撃力は不可欠なもの。仮に退団となれば世界中を見渡しても穴を埋められる選手を見つけるのは困難だろう。
ヨーロッパリーグではマルセイユとの決勝で2ゴールを決め、ロシアワールドカップでも全試合に先発し4ゴール3アシストを決めて優勝に貢献した。所属する全てのチームで絶対的エースとして君臨し、ビッグタイトルの獲得に導いている。そういう意味では、世界最高のエースと言っても過言ではない。
グリーズマンの残留はチームの補強策にも良い影響を与える。柱が決まっていれば、どのポジションを補強すべきか明確になるからだ。
まず、アトレティコは昨季冬の市場でヤニック・カラスコを中国の大連一方に放出している。そして今夏にはフェルナンド・トーレスが日本へ渡り、長く主将としてチームを支えたセントラルMFのガビも退団。さらに定位置を掴めないガメイロがバレンシアへ、同じくヴルサリコがインテルへ移籍した。
そのため、今夏のアトレティコの補強ポイントは主力級の左サイドハーフ、2番手の右サイドバック、セントラルMFとFWのローテーション要員となった。
その左サイドハーフにはフランス代表のルマールをモナコから獲得。圧倒的なスピードでサイドを突破し、昨季はリーグ・アンで10アシストを記録したウイングで、22歳とさらなる成長が期待できる逸材だ。
そして右サイドバックにはコロンビア代表のサンティアゴ・アリアス、セントラルMFにはビジャレアルで不動の座を築いていたロドリ、FWにはニコラ・カリニッチを獲得。カリニッチはW杯では途中出場拒否で強制送還というトラブルを巻き起こしたものの、グリーズマンとジエゴ・コスタのサブとしては心強い実力者である。
今夏の補強はポイントを抑えた満足の結果だったといえる。そしてそれは、グリーズマンを留める事が出来たからこその成果だった。仮にグリーズマンが移籍となっていれば代役を探さなければならず、長い交渉が必要となったため、他選手の補強に出遅れていた可能性が高い。
リーグ開幕から3試合は1勝1分け1敗と波に乗れてはいないものの、開幕前のUEFAスーパーカップでは宿敵レアル・マドリーを延長戦の末に撃破した。攻守ともに充実するアトレティコは、今シーズンも欧州の舞台で主役の1つとなるクラブだ。