イニエスタ不在でボールが意思を失う
カウンターの応酬を制したのは、ホームのFC東京だった。90分、ディエゴ・オリベイラがドリブルで持ち込むと、丁寧なラストパスをリンスが蹴り込んだ。今夏に加入した、“仕上げのリンス”と呼ばれるブラジル人アタッカーが首都クラブに勝ち点3をもたらした。
ヴィッセル神戸としてはこうした展開には持ち込みたくなかったはずだ。「前半から自分たちがボールをもっと賢く持ったり、攻撃ができていれば…」。吉田孝行監督はこう振り返ったように、神戸はボールこそ持てても思い描いたルートで相手ゴールに迫ることができない。
38分には三田啓貴、藤田直之と繋ぐと増山朝陽が前に運んで右サイドへ展開。クロスは精度を欠いたが、攻撃がスピードアップした瞬間ではあった。それでも、前半はギアを挙げるタイミングを見つけられぬまま過ごすことになった。
また、前にパスをつけられるところで後ろに下げてしまう場面が散見。消極的に映るプレーを選択した時、監督は脱力したような仕草を見せた。神戸はボールに多くの人が絡もうとするものの、ボールの逃がしどころはなかった。FC東京が相変わらずの鋭い寄せが際立ったとも言えるが、相手にとって嫌なポジションを取ってプレスを徒労に終わらせることのできる存在が、この日の神戸にはいなかった。
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