世界を驚かせた60m独走の超速ドリブル
「彼は別の惑星から来た」
サッカー界で異次元の能力を発揮する選手を形容するとき、とりわけリオネル・メッシについて、このような言葉を何度も目にしてきた。そして今日、同じ表現を別の選手に使うことになるとは思いもしなかった。
「キリアン・エムバペは別の惑星から来たのではないか」
もはや本当にそうとしか…いや、実際には地球出身なのだが、30日のアルゼンチン戦で見せたパフォーマンスはこれまでの常識を覆しかねないものだった。
開始11分、世界が驚いた。エベル・バネガのコントロールミスを見逃さず、自陣中央でボールを攫ったエムバペは、一気にスピードを上げてゴールに向かって突き進む。凄まじい速さのドリブルでハビエル・マスチェラーノを一瞬で置き去りにし、ペナルティエリア内に侵入。ここで置いていかれそうになったマルコス・ロホに倒され、フランスにPKが与えられた。
ドリブルした距離は実に60mほど。そこで一度もスピードを落とすことなく、ボールと共に走り抜いた。だが、これはエムバペ劇場の始まりに過ぎなかった。
メッシを下がり目のFW、いわゆる“偽9番”的に配置したアルゼンチンも必死に食い下がった。絶対的エースはエンゴロ・カンテの厳しいマークに遭っていたものの、41分にアンヘル・ディ・マリアが芸術的な左足のミドルシュートで同点ゴールを決める。
さらに後半序盤の48分、セットプレーのこぼれ球を拾ったメッシが左足でシュートを放つと、ニアサイドに残っていたガブリエル・メルカドの足に当たってコースが変わり、勝ち越しゴールが決まった。しかし、アルゼンチンの反撃の勢いはすぐに削がれてしまう。
57分、ブレーズ・マテュイディのロングスルーパスを使って相手守備陣の裏に飛び出したリュカ・エルナンデスがクロスを上げると、ファーサイドに流れたボールを、走り込んでいた右サイドバックのバンジャマン・パバールがボレーシュート。しっかりと抑えられた鋭いボールがゴール左隅に突き刺さって、フランスが再び同点とする。
そしてここからエムバペ劇場第2幕のスタートである。64分、ポール・ポグバから左に展開し、リュカ・エルナンデスが折り返す。ゴール前の混戦でマテュイディのシュートがブロックされると、こぼれ球に詰めていたエムバペが左に持ち出し、巧みな足技で間合いを取ったうえで左足を振り抜いた。ボールはGKフランコ・アルマーニの左手をかすめて貴重な勝ち越しゴールが突き刺さった。