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乾貴士はなぜ西野Jを活性化できるのか? スペインで磨かれ「スペースの名手」に、攻守に高い貢献度

text by 編集部 photo by Getty Images

乾貴士
乾貴士はパラグアイ戦で2ゴールの大活躍。攻守における貢献度の高さが際立った【写真:Getty Images】

 日本代表は12日、パラグアイ代表との国際親善試合に4-2で勝利した。西野朗体制での初勝利でもある。

 先月30日のガーナ戦、8日のスイス戦と合わせてロシアワールドカップに向けたテストマッチ全てが終わった。そしてこの3試合を経たことで、コロンビアやセネガル、ポーランドに対抗するために必要な選手も自然と見えてきている。

 パラグアイ戦では、スペインでのリーグ戦最終盤に負った怪我の影響でコンディションに不安を抱えていた乾貴士が、すでに万全の状態であると同時にチームに不可欠な戦力であることを証明した。

 マリやウクライナと対戦した3月の欧州遠征では「得点力不足」を指摘され、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が選んだ日本代表メンバーから外れていた乾。その時は中島翔哉の台頭に押されて立場が危ぶまれたが、やはりスペインのトップレベルで磨き上げた実力は本物だった。

 ハリルホジッチ前監督も高く評価していたのは、乾の守備面でのインテリジェンスだった。以前は超絶技巧を生かした突貫ドリブラーのイメージが強かった“セクシーフットボールの申し子”も、年齢を重ねるごとに選手としての総合力を飛躍的に高めている。

 エイバルでホセ・ルイス・メンディリバル監督に叩き込まれたのは、守備時の「立ち位置」である。どのスペースを埋め、どのタイミングで相手に寄せ、いかにしてチームディフェンスの一部として連動すべきかというセオリーを体に染み込ませ、自然にピッチ上で存在感を発揮できるまでになった。

 ここが日本代表で左サイドのポジションを争う宇佐美貴史との決定的な違いでもある。フォルトゥナ・デュッセルドルフでドイツ2部リーグ優勝と1部昇格に貢献した西野監督の愛弟子は、卓越したシュート技術と局面打開力を備えるが、守備力は極めて低いと言わざるをえない。

 スイス戦に先発した宇佐美は、ボールを奪われたあとの攻撃から守備の切り替えで遅れをとり、何度もそこを狙われた。相手に寄せているように見えても、プレッシングが全く効果的でない場面も散見される。

 そしてガンバ大阪の最高傑作とも言われる男の奔放さは、攻撃面でもチームのバランスを崩しがちになる。味方を生かそうとする意識が希薄で、独善的なプレーに走った結果孤立したり、相手に囲まれてあっさりボールを失ったり、連動しきれず棒立ちになったりすることすらある。

 一方、乾はもともと武器として持っていたドリブル以外にも、周囲との連動でスペースを見つけ、そこからゴールへの道筋を描くプレーにも長けている。パラグアイ戦の51分、同点ゴールを奪った場面にそれが表れていた。

 最終ラインで昌子源がフリーでボールを持った時、乾は左サイドから内側に入って、香川真司の近くに寄り、タッチライン際に左サイドバックの酒井高徳が走り込むスペースを空けた。さらに乾自身は4人の相手に囲まれた四角形の中央に立って、最もマークしづらい存在となる。

 そこにハーフウェーラインを越えて持ち上がった昌子から、香川への縦パスが入る。トップ下の背番号10は、乾と近い距離を保ちながらも、セレッソ大阪時代の元同僚が四角形の中央に入るタイミングで、同じスペースから抜けて昌子からのパスを受けた。

 ここでパラグアイ守備陣に混乱が生じ、乾を囲んでいた4人のうち2人の注意が香川に向く。それを察知した香川は半身になって昌子からのパスをワンタッチで捌いて乾に渡す。そしてそのまま一瞬下がったのち、乾の背中を通りながら裏のスペースへ突進し、別のディフェンスを1人引きつけた。

 乾はボールを持つと、香川が抜けていったスペースを使ってペナルティアーク方向へドリブルしていく。この時、パラグアイの選手は2人の日本人に翻弄されてそれぞれの役割を見失い、乾に対して誰も寄せられなかった。フリーとなった背番号14は右足を振り抜き、見事なシュートをゴール右隅に沈めて日本に勢いをもたらした。

 攻撃でも守備でも適切にスペースを管理し、必要に応じて立ち位置を調整しながら自らが最大限の力を発揮できるシチュエーションを作り出せるようになった乾。その彼のチームへの貢献度は見た目以上に高い。

 西野監督が宇佐美の能力を高く評価しているのは明らかで、確かにここぞの爆発力を秘めた稀有な存在であることに疑いはない。だが、ワールドカップという世界最高峰の舞台でコンスタントにチームに貢献できる総合力の高さを証明した乾を、本番で起用しない判断は不自然だろう。

 乾は「(香川とは)セレッソでずっとやっていた選手なので、すごくやりやすい」と手応えを語り、香川も「乾とは本当に長年(一緒に)やっている分、どういうプレースタイルか知っているし、それはチームとして1つの武器になるということを今日証明できた」とコンビ復活に自信をのぞかせた。チーム作りに時間をかけられない中で、すでに完成したユニットを生かすメリットも大きい。

 周囲と有機的に連係しながら「1+1」を「2」以上にできる乾は、西野ジャパンがロシアの地で逆境を跳ね返すために不可欠な存在であると、自らの実力で証明した。30歳になってなお成長し続ける「スペースの名手」の真骨頂は、ドリブルだけではないのである。

【了】

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