まさかのレストランで。家族に見せる穏やかな素顔
イニエスタが来てくれてとても嬉しい。来季もバルサの中心で活躍できる超絶技巧を持つ選手が、本当にヴィッセル神戸にやって来た。
カタルーニャのファンたちの喪失感は大きいと聞く。それはそうだろう。バルセロニスタはイニエスタを心から愛していた。
アルバセテ出身なのでカタルーニャの人間ではないが、バルサのラ・マシア(育成組織)で育ったカンテラーノであり、ペップのバルサ時代に代表される攻撃的なティキ・タカを体現して、いくつものタイトルをクラブにもたらした思い出はクレたちにはまだ鮮明なはずだ。スペイン代表としてもユーロを取った中心メンバーであり、ワールドカップ南アフリカ大会のファイナルでは延長戦で決勝ゴールを決めている。
バルサのみならず世界が認めるクラック。彼が希望する限り契約が毎年更新される終身契約という特別待遇にも誰も嫉妬しなかったのは、それだけの選手であるだけでなく、人から嫌われない人柄だからだと多くの記者や選手が声を揃える。
直接話したことはないが、すぐ隣のテーブルで食事をしたことならある。2010年の夏、ワールドカップ南アフリカ大会が終わり、欧州リーグが開幕したあとも僕は少し長めのバカンスを兼ねて番組のスタッフ達とスペインで取材旅行を続けていた。
その日はカンプノウで行われたチャンピオンズリーグ、グループステージ開幕節でバルサがパナシナイコスを5-1と圧倒したゲームを堪能したあと、遅い夕食をとろうと静かなレストランに入ったらイニエスタが家族達と食事にやってきた。二ヶ月前にワールドカップで決勝ゴールを決めたヒーローはどこか照れ臭そうな、はにかんだような笑顔で家族のために椅子を引くなど気を遣っていた。