日本代表を率いていたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督【写真:Getty Images】
訴訟の際に「1円の慰謝料」を求める場合、一般的にお金目的ではないことを示すためだという。
24日に田嶋幸三・日本サッカー協会(JFA)会長とJFAを相手どり、東京地方裁判所に提訴したヴァイッド・ハリルホジッチ氏も、慰謝料1円を求めていた。それ以外は謝罪広告の掲載だ。
サッカー日本代表の監督だったハリルホジッチ氏は、4月7日、突然契約を解除された。解任にあたってJFAは具体的な説明をしておらず、田嶋会長は記者会見などで「コミュニケーションの問題」と語っていた。しかし、その問題点について証拠提示はなく、ハリルホジッチ氏は不当に社会的地位を低下させられ、名誉毀損にあたるとして提訴に至った。
やはり今回の提訴も金銭を得ることが目的ではない。したがって慰謝料は1円という設定になっているが、訴状によればより詳しい理由が明らかになった。
主に2つある。1つは精神的苦痛の大きさ。今回の解任にハリルホジッチ氏は憤るとともに、例えようのない苦痛を味わっているという。解任そのものというよりは、コミュニケーションを重視してきたにもかかわらず、そこに「難がある」という印象を田嶋会長の発言などで広められたことへの苦しみだ。それを金銭で評価することはできないというのだ。
2つめは、日本への思い。JFAは税制優遇を受ける公益財団法人である。金銭を要求することは間接的に国民の負担になってしまい、その点をハリルホジッチ氏としては避けたい狙い。
ハリルホジッチ氏は監督としては極めて厳格な態度で臨んでいたが、ピッチを離れると性格は180度変わった。報道陣と談笑することもあったし、ファンの握手などには気軽に応じた。
2016年4月に熊本県で地震が起こった際には、すぐに被災地を訪問。被災者である子どもたちとサッカーをするなど触れ合い、約1年後に再訪。また、県のゆるキャラである「くまモン」のバッジをもらうと、それを試合中は必ずスーツにつけていた。気難しいように見えた指揮官には日本を思う気持ちがあり、それは解任されてからも変わらない。
JFAは契約解除の際に法的な確認をしており、そのプロセスに問題はないと考えている。果たして、訴状は受理され裁判が開始されるのか。遅くとも6月上旬には判明する見通しだ。
(取材・文:植田路生)
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