遅咲きのストライカー
セビージャでは2度のUEFAヨーロッパリーグ(EL)制覇に貢献し、ミランでも2年間プレー。今季に移籍したビジャレアルでも15ゴールと(36節終了時)確かな実績を残しているカルロス・バッカ。優秀なストライカーを多数輩出するコロンビアの躍進を象徴する一人だ。
武器は瞬間的なスピードと、ゴール前でのわずかな隙を突いてシュートを打てる技術だ。エリア内のスペースに顔を出すと、シュートイメージを描いて、その通りの正確なキックができる。技術は繊細で、ゴール前の密集地でも軽やかにマークを外す。裏抜けも上手く、足元の技術も高いので周囲とパスをつなぎながらゴールへ向かうこともできる。
またエリアに入ってシュートを狙えば、意表を突いたミートで蹴ってくる。利き足は右だが、右半身のスペースを遮られても体をよじって右のアウトフロントで合わせて来たり、左サイドに流れれば軸足の後ろからラボーナで蹴ってきたりする。ターンをしたり、右足に持ち替えたりしているだけでも、相手に追いつかれる時間を与えてしまう。バッカの技術は、厳しいゴール前のディフェンスとの一瞬の攻防を制するために磨かれたものだ。
そんなバッカのキャリアを振り返ると、一つの興味深い事実が目に留まる。海を渡り、ヨーロッパでプレーをし始めたのは26歳。海外への移籍が盛んになり、若くして母国を離れるケースが多い南米人選手にしては比較的遅いのだ。そもそもトップカテゴリーでのプロデビューも22歳と”遅咲き”の部類に入る。
それには理由がある。働いて家計を助けるため、一度は所属のクラブから退団し、競技としてのサッカーをやめていた時期があったのだ。
1986年、プエルト・コロンビアで生を受けたバッカは、カリブ海に面した人口170万人の湾港都市バランキージャで育った。地元のクラブで幼少の頃から技を磨いてはいたが、裕福とは言えない家庭の経済状況からプレーの続行は困難になった。