指揮官の「灰になるまで戦え」を体現した永井の走り
とてつもない記録がひっそりと、なおかつ一戦ごとに量だけでなく質も伴いながらJ1の舞台で継続されている。序盤戦を終えて2位につけるFC東京を、自身の代名詞でもある「スピード」でけん引している、FW永井謙佑がピッチに刻んでいるスプリントの回数だ。
2トップの一角として先発メンバーに定着した、ガンバ大阪との明治安田生命J1リーグ第5節以降の9試合、合計651分間で永井は284回ものスプリントを記録。1試合平均で31.56回。90分間における数字に換算すれば、実に39.26回にまで跳ね上がる。
少々アバウトなパスでも、前方のスペースへ蹴り出せばほとんどの場合で追いついてくれる。ボールを受ければ猛然とアプローチをかけ、相手選手は瞬く間に距離を潰されてプレッシャーにさらされる。永井ほど味方にとって頼もしく、相手の最終ラインにとっては厄介な選手はいない。
直近の一戦が、好調をキープするFC東京における永井の存在意義を物語っていた。セットプレーから前後半に1ゴールずつを奪い、守っては昨季の覇者・川崎フロンターレを零封。会心の勝利を収めた第13節後の公式会見でのひとコマだった。
「僕のなかでは、今日は(永井)謙佑がMVPだと思っています」
汗ばむほどの陽気に恵まれ、さらにはスコアレスドローに終わったヴィッセル神戸との前節から中2日で迎えた敵地での大一番。過密日程のなかで72分にベンチに退くまで、実に36回ものスプリントを駆け続けた永井へ、長谷川健太監督は賛辞を惜しまなかった。
「今日は灰になるまで戦え、と試合前に選手たちには言いました。その通りに気持ちを出して戦ってくれたし、(永井)謙佑は途中で『足が攣りそうです』と言ってきたので、僕は『攣るまでやれ』と言いました。スコアが1-0のままだったら、本当に攣るまで使っていたと思います。
謙佑は連戦のなかで太ももの裏などに張りがあり、今日も微妙な状況でしたが、本当によくやってくれました。謙佑じゃないと追いつけないボールを出しても、文句を言わずに走ってくれた。彼の頑張りがなかったら、後半ああいう形で押し返せなかったと思います」
10日間で3試合を戦うロシアワールドカップのグループリーグに置き換えてみる。いずれも日本より格上のコロンビア、セネガル、そしてポーランドに乾坤一擲のカウンターを仕掛けられる群を抜くスピードが、50mを5秒8で走破する永井には搭載されている。