「一緒にW杯に、という思いはすごく強かった」
時間を巻き戻すことはできない。タイムマシンで過去へ飛び、もう一度やり直すこともできない。どんな状況に直面しても常に前へ進んでいく人生のなかで、それでもマイルストーンとして、心に繋ぎとめておかなければならない思いがある。
ヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督の記者会見が、都内で行われてから一夜明けた4月28日。浦和レッズのDF槙野智章は、埼玉スタジアムで行われた湘南ベルマーレ戦後に、胸中に秘めてきた偽らざる思いを明かしている。
「僕個人の本音としては、いままで育ててきてもらったし、プレーもそうですし、考え方も大きく変わってここにいられるのは、もちろん浦和でのプレーや指導者の方のおかげでもありますけど、ひとつはハリルホジッチ監督の厳しい言葉や、褒める言葉があってこそだと思っています。僕はすごく感謝していますし、一緒にワールドカップに、という思いはすごく強かったです」
ハリルホジッチ前監督が初めて日本代表の指揮を執った2015年3月27日。チュニジア代表を大分中銀ドームに迎えた国際親善試合のピッチで、槙野は吉田麻也(サウサンプトン)とセンターバックを組み、2‐0の快勝を告げるホイッスルが響き終わるまでピッチに立った。
槙野にとっては、ザックジャパン時代の2013年10月に行われたガーナ代表戦以来、約1年半ぶりの日本代表戦だった。新体制の初陣で先発として起用されるのは、指揮官の覚えがめでたい証。しかし、ハリルホジッチ氏との軌跡を振り返れば、厳しい言葉のほうがはるかに多かった。
たとえば、チュニジア戦を2日後に控えたミーティング。あえて海外組と国内組とに分けて実施したハリルホジッチ氏は、前者には「厳しい環境でレギュラーをキープできるように頑張れ」とエールを送った一方で、国内組には容赦なく「ダメ出し」を連発している。
「相手に当たることに対して、リスペクトしすぎている。優しく当たりにいって、逆にひじ打ちを食らっている。常に強気でいって、そのなかにリスペクトの精神を持て。試合が終わってから相手に謝ればいい。試合中は全員が敵だ」