平均走行距離6.9km。ハーフウェーライン上で給水!?
「本当に疲れた。今日はそれしかない。走り疲れた。体が中断明けで重かったし、最後の方は足攣りそうだったくらい。フィールドプレーヤーってすごいなって試合やりながら思っていたくらい疲れた」
先月31日の清水エスパルス戦を終えた後、横浜F・マリノスのGK飯倉大樹は連勝したことによる充実感を漂わせつつ、同時に疲れも口にした。自ら「疲れた」と言葉にしたのは、今季開幕以降初めてだったかもしれない。
それもそのはず。飯倉が清水戦で記録した走行距離は7.39km。今季のリーグ戦第5節までで自身最長の数字だった。ここまで5試合の平均が6.91kmだが、90分あたりの走行距離がだいたい4〜5kmと言われ、1試合で3km台に収まることもあるGKとしては異常とも言える数値を連発している。
開幕から特異なポジショニングが話題にもなった。味方のボールポゼッション時にはペナルティエリアから離れてパス回しに加わり、ハーフウェーライン上で給水することもある。カウンターを食らえば最終ラインの裏のスペースを果敢な飛び出しでカバーする。
飯倉自身「GKはGKをすることだけが仕事じゃないから」と平然と言ってのけるが、まさに「GKだけじゃない」活躍が光る。「大事なのは90分間、常にGKも含めて試合に関与していること」であり、
「自分自身も今後も10+GKじゃなくて、11人という立ち位置」でプレーすることが今季の輝きにつながっている。
では、飯倉大樹という選手は90分間どんなことを考えながらプレーしているのだろうか。1人の選手がボールに触れるのは90分のうちほんの数分間しかないと言われる。GKとなれば、それ以上にボールに関与する場面は少なくなりがちだ。そこで飯倉がプレーの大半の時間を割いているのが「予測」である。
常に最後方から見方や相手の動きをつぶさに観察し、ポジショニングを修正する。そして高く設定された最終ラインの裏にできる広大なスペースを幅広く動いて守備時のカバーや、攻撃時のビルドアップに絡む。それらが全て合わさっての平均走行距離6.9kmというわけだ。
マリノスのトップチームで長きにわたって飯倉を指導してきた松永成立GKコーチは、アンジェ・ポステコグルー監督が掲げる戦術においてGKに求められる振る舞いとはどんなものか、次のように話してくれた。
「基本的にポジショニングというのは、ボールとの距離と角度によって決まるものだけど、今の場合だと普通の状態よりもポジションを前に取らないといけない。監督からも明確に『最終ラインからこの距離』ということを言われている。それをキープしながら、結局常にボール保持者のボールの状態を見る。
1つのところだけにパスがくるわけじゃないので、相手の選手が何人か最終ラインの裏を狙おうとしている。それを見ながら、常にどこのパスコースがあるか予測する。その選択肢の中で優先順位が絶対にある。常にパスが出る予測の数はかなり持っておけとはよく言っています」