日本スポーツ界初の商業施設複合型クラブハウス
JR常磐線の湯本駅で下車し、新常磐交通バスに揺られること約7分。地元では「御斎所街道」と称される福島県道14号線の右側、豊かな自然に囲まれていた光景のなかに巨大な入り口が登場する。
『IWAKI FC PARK』
スロープを上がっていくと右側には巨大な物流センターが、300台を収容できる駐車場をはさんだ正面には、外壁を赤色で覆われた鉄筋3階建ての壮観な建物が視界に飛び込んでくる。
今夏の天皇杯全日本サッカー選手権大会2回戦で、J1の北海道コンサドーレ札幌を延長戦の末に5‐2で撃破。痛快無比なジャイアントキリング旋風を巻き起こした、福島県社会人リーグ1部所属のいわきFCが活動拠点としている、日本スポーツ界初の商業施設複合型クラブハウスだ。
アメリカのスポーツ用品メーカー、アンダーアーマーのアウトレットショップや輸入車販売店が1階に、5軒の飲食店が3階に入居している施設内を見渡していくと、幾度となくこんな言葉を目にする。
『WALK TO THE DREAM』
夢へ向かって一歩ずつ進んでいく――いわきFCのチームスローガンだ。もっとも、夢のひとつをJリーグへの昇格と位置づけた場合、ピラミッドの頂点となるJ1から数えて7部に相当するいま現在のカテゴリーを、まさに駆け足で上げられるチャンスがあった。
10月中旬に福井県で開催された第53回全国社会人サッカー選手権大会。いわゆる「全社」と呼ばれるトーナメント戦に東北地域代表として出場したいわきFCが成績上位3位以内に入れば、JFLへの登竜門となる全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2017への出場権を獲得することができた。
初挑戦だった昨年は、いま現在はJFLで戦うヴィアティン三重に準々決勝で敗れた。果たして、捲土重来を期した今年は2回戦で、PK戦の末にアミティエSC京都に苦杯をなめさせられた。
チームスローガンのなかの『WALK』を『RUN』へ変えることはかなわなかったが、いわきFCを運営する「株式会社いわきスポーツクラブ」の大倉智代表取締役(48)は「もともとゼロからクラブを作って、ひとつひとつ上がって行こうというコンセプトだったので」と意に介していない。
「選手たちには『Jリーグに行きたい』とか、あるいは『JFLに行きたい』と基本的には口にするなと常々言ってきました。もちろんそういう仕組みがあるから、選手たちも早く上がりたいという気持ちになるのは当然だけれども、Jリーグを目指すのは正しいけど、でも正しくないので」