お祭り騒ぎのオールド・トラッフォード
人間誰でも、 自分ではたいしたことはないと思っていることを必要以上に褒められると、いぶかしげな気持ちになる。そして、そういった時の表情は、煙たいとも眩しいともいえるものになる。
1月28日、カーディフ戦でデビューしたスペイン代表MFファン・マタが、試合後のTVインタビューを受けている間、何度かそんな表情をした。
結論からいってしまうと、僕がこの試合で一番感心したのが、このマタの表情だった。
インタビュワーは、執拗に「今日の試合は良かった」「マンチェスター・ユナイテッドの欠けていたピースになった」とはやし立てたが、マタはこうした褒め言葉を聞く度に、煙たそうに目を細めた。
その表情を見て“こいつは分かっている”と思った。そして、今後、どうやって自分の良さをこのチームで発揮していこうかと、懸命に思案しているのではないかとも思った。
この試合、オールド・トラッフォードはお祭りムードに包まれた。
もちろん話題の中心は“64億円男”マタのデビューだった。
これだけでもサポーターの心が浮き立っただろう。ところがこの日の明るい話題はそれだけではなかった。マタのデビューに加え、長い間欠場を続けていたファン・ペルシー、ルーニーもピッチ上に戻ってきた。
さらにマンチェスター・ユナイテッドサポーターにとっては『永遠のアイドル』といっていい、オーレ・グンナー・スールシャールがカーディフの監督になって戻ってきた。
言わずと知れた、99年欧州CL決勝の劇的な決勝弾を決めた、ベビーフェイスの元ノルウェー代表ストライカーである。
トレブルを決定づけたスールシャールは、英語では「ソーシャ」と発音される。彼のチャントで使われる歌は『ユー・アー・マイ・サンシャイン』だ。「サンシャイン」(陽の光)の部分に「ソーシャ」がばっちりはまる。
君は僕のソーシャ
僕の唯一のソーシャ
空が灰色の時でも
君は僕を幸せにする
この歌が敵味方を隔てず、7万5000人の合唱となって、マンチェスター・ユナイテッドの本拠地に何度もこだました。