「カズと似ている」という印象
最初に見たときの印象は「カズと似ている」だった。三浦知良がブラジルから日本に戻ってきたときと、十代のクリスティアーノ・ロナウドにどこか重なるものがあったのだ。
スポルティングとの親善試合の帰路、マンチェスター・ユナイテッドの選手たちは、アレックス・ファーガソン監督にロナウド獲得を進言したという。ユナイテッドの一員になるには、たんに上手いだけではダメだ。強烈な個性とメンタルの強さが要る。
例えば、エリック・カントナのように。誰も理解できない神秘性、近寄り難い孤高の存在、何をしでかすかわからない危険な香り……しかしユナイテッドにはうってつけだった。ユナイテッドの面々が一目惚れしたということは、ロナウドがたんに上手いとか速いというだけではなく、内面に尋常でない炎を見出したからだろう。
「実はそんなに上手いと思ったことはないのですが、独特の勝負強さは日本人選手にはないものでした。1回目のシュートをDFにぶつけ、2回目もぶつけても、3回目に足の間を抜けてゴールする」
カズを日本代表に招集した当時の横山謙三監督の回想である。高校1年の途中でブラジルへ渡るとき、周囲から「ブラジルでプロになるなんて99パーセント無理」と諭されたのに「1パーセントはあるんですね」と返したという。普通ではない。成功した後だからエピソードになるが、その思考はむしろ異常だろう。ただその異常性、心の炎がなければ、カズはカズになりえなかっただろうし、ロナウドも今日のロナウドではない。
ファーガソン監督が選手たちの進言を入れて獲得し、しかもクラブ伝統のエースナンバー7番を与えたのだから期待されていたのは間違いない。だが、当時のロナウドは言ってしまえば「足が速く動く」だけの選手だった。シャカシャカと凄いスピードでボールをまたぐ。第一印象がカズと似ていると思ったのはこの特徴からだ。
しかし、ドリブルのテクニックだけではプレミアリーグでは通用しない。そもそもこういうチャラチャラしたプレーはイングランドでは受け入れられない。かつては南米選手が少しドリブルしただけで「パスしろ!」とすかさず罵声が浴びせられた国柄なのだ。
当初、ロナウドはすぐに消えるだろうという意見もあった。しかし、そうはならなかった。