「こういうときにゴールを決めるのは、絶対に自分だ」
チームを救う究極のエゴイストになるんだと、心のなかで何度もつぶやいていた。
「こういうときにゴールを決めるのは、絶対に自分だ。自分しかいない」
奇跡の勝利を後押しする大歓声の塊が等々力陸上競技場を揺るがすなかで、川崎フロンターレのキャプテン、FW小林悠の強い気持ちが背中を介してチームメイトたちにも伝わっていた。
だからこそ、何も言わなくても自然とボールが集まる。1点差に追い上げた直後の後半39分。左サイドを駆け上がった日本代表DF車屋紳太郎は、ニアサイドのFW知念慶、中央のMFハイネルではなく、ファーサイドにいた小林へアーリークロスをあげた。
ボールをキープしながら、小林の前方を斜め右へ走っていったハイネルに一瞬ながら気を取られた、ベガルタ仙台の守備陣を見透かすように左側へシフト。シュートコースが空いた刹那に迷うことなく左足を振り抜き、ゴール左隅を鮮やかに射抜いた。
それでも、笑顔を浮かべることなく、右手のひとさし指を立てて「1」を周囲に伝える。言うまでもなく「もう1点取って逆転するぞ」というジェスチャーだ。わずか3分後に、それが現実のものとなる。
相手の縦パスをインターセプトしたMF長谷川竜也が、そのままドリブルで前へ駆け上がってカウンターを仕掛ける。そして、ペナルティーエリアが見えたあたりで左側へパスをはたいた。マークの薄い左サイドに開いていた小林がそこにいた。
「正直言うと、あまりにしんどすぎて、もうボールを前へ運べなかったので『打っちゃえ』と。相手に当たりましたけど、シュートを打つことに意味があると思ったので、そこは迷わず打てました」
ペナルティーエリアの左隅のやや外側から対角線を狙って、今度はカーブの回転をかけた一撃を右足から放つ。慌てて距離を詰めてきたDF平岡康裕の体をかすめ、わずかにコースを変えた軌跡はそれでもゴールの枠から外れることなく、ネットに吸い込まれていった。