幸運が導いた劇的な決勝ゴール
残り時間は4分とアディショナルタイムのみ。誰もが延長戦突入を覚悟していた。
その時、一瞬でスタジアムの雰囲気が変わった。記者席でも多くのメディアが思わず立ち上がる。奇跡の逆転の瞬間だった。
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の準々決勝2ndレグが9月13日に行われた。浦和レッズはアウェイでの1stレグを1-3で落としており、逆転での準決勝進出は厳しい状況だった。2ndレグも川崎フロンターレに先制を許してしまう。
アウェイゴールまで奪われて3点が必要になっても、浦和は諦めなかった。35分に興梠慎三が1点を返すと、直後の38分に川崎Fの車屋紳太郎が一発レッドカードで退場となり、数的有利に。後半は圧倒的にボールを支配して攻め続け、70分、84分とゴールネットを揺らし、2戦合計スコアで同点に持ち込んだ。
誰もが延長戦を想定していただろう。お互いに交代枠を1つずつ残し、残り5分。1人少ない川崎Fは10人で守りきるしかない状態だった。そんな雰囲気を一変させたのは、浦和の背番号13だった。
86分、ペナルティエリア手前のピッチ中央でボールを受けた森脇良太が、左サイドへロングパスを送る。それに反応して飛び出した高木俊幸が左足を出す。ループ気味になった“シュート”は、GKチョン・ソンリョンの頭を越えてゴールネットを揺らした。絶望的な3点差から奇跡の逆転を成し遂げた。
しかし、試合を終えた高木はどうも歯切れが悪い。「アジアの舞台でようやく結果を出せましたけど、正直100%狙ったゴールではないんで、あまりこう…なんていうんですかね…喜んでいいと思うんですけど、まだ満足しちゃいけないなと思います」と語る。
森脇からボールを受けた時、高木にはシュートという選択肢が「5%も頭の中になかった」という。その時は「完全に中に折り返すことを考えていた」。
ペナルティエリア内がしっかり見えていて、2人のターゲットが確認できていた。森脇からのパスをダイレクトで折り返して、フリーになっていたズラタンが詰めればゴールになるイメージがあった。自身のゴールは、いわば「ラッキー」だった。