「あそこが空いてくるというのは意識していました」
日本サッカー界の歴史に、自らの名前を残せたという自負はある。それでも、あの一発だけでハリルジャパンのなかに指定席を築けるほど勝負の世界は甘くない、と自らに言い聞かせることも忘れない。
ロシアのピッチを駆け抜けるために。FW浅野拓磨(シュトゥットガルト)は決意も新たに、敵地ジッダで行われるサウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選の最終戦に臨もうとしている。
左足のインサイドには、心地よい感覚がわずかながら残っている。オーストラリア代表を埼玉スタジアムに迎えた8月31日の大一番。両チームともに0‐0で迎えた、前半41分だった。
「長友(佑都)さんが顔をあげた瞬間を、僕は狙っていました。長友さんが僕を見てくれていたかどうかはわかりませんけど、中の状況をしっかりと把握してくれていたので、あれだけいいボールが出てきたと思っています。あとは僕自身が合わせるだけたったので」
左タッチライン際で縦パスを受けたDF長友佑都(インテル・ミラノ)が切り返し、自陣に戻りながら体を強烈に左方向へひねる。右足から放たれたクロスが、弧を描くようにファーサイドへ飛んできた。
「オーストラリアの映像を何度も見て、あそこが空いてくるというのは意識していました。狙い通りでしたし、あのタイミングで飛びだすのは僕の持ち味だと思っているので」
浅野が口にした「あそこ」とは3バックの右ストッパーと、右ウイングバックの間のこと。後者のブラッド・スミスに悟られないようにラインに平行に走りながら、タイミングを見計らって右へ急旋回する。
フリーの状態で長友のクロスに対応する浅野の姿を、オーストラリアの選手たちは見送ることしかできなかった。左足によるワンタッチの高難度なボレーを、しかし、浅野は冷静沈着にゴール右隅に流し込んだ。