昨季途中から抱えていた悩み。「違うチームに身を置くべきなのか」
数字は右肩上がりの軌道を描いていた。出場試合数。先発回数。そして、プレー時間。トップチームに昇格した2013シーズンからすべての部門を順調に伸ばし、4年目だった昨シーズンはそれぞれ23試合、20回、1754分間をマークした。
3月12日のジュビロ磐田戦では、待望のプロ初ゴールもゲット。バンディエラ・大谷秀和が不在のときは、左腕にキャプテンマークも巻いた。柏レイソルの心臓部を担う存在となっても、秋野央樹(ひろき)の心に巣食った不安は時間の経過とともに大きくなっていった。
「昨シーズンの途中くらいから、このまま試合に出ていても、自分の伸びしろがそれほどないんじゃないかと感じていた。もちろんレイソルでも伸びないことはないですけど、自分のプレーの幅というものを広げたいと考えたときに、違うチームに一度身を置くべきなのか……いや、置く必要があると思ったんです」
シーズン終了が近づいたときに、意を決した秋野は強化部へ「一度クラブを出たい」と期限付き移籍を志願した。時をほぼ同じくして、J2降格が決まっていた湘南ベルマーレからオファーが届いた。師走の都内某所。曹貴裁(チョウ・キジェ)監督と面談の場をもった。
ベルマーレへ期限付き移籍した経験をもつFW武富孝介、柏レイソルU‐12時代からの盟友でもあるMF中川寛斗から、曹監督のことは聞いていた。厳しくて、熱くて、それでいて優しい。大きな背中を誰もが慕い、ついていきたくなる。秋野は思いの丈を訴えた。
「変わりたいんです」
曹監督はわざわざ用意してきた秋野のプレー映像を見せながら、ベルマーレに与えてほしい武器、ベルマーレで伸ばせる長所、ベルマーレで改善できる短所を丁寧に説明してくれた。
交渉というよりは、むしろアドバイスに近かった。何度も言葉を交わしているうちに、すべての不安が取り除かれていくのを秋野は感じていた。
「この人のもとでなら自分の可能性はどんどん広がるんじゃないか、自分のサッカー人生を未来から逆算したときに、いまこそベルマーレでプレーすべきなんじゃないかと思えたんです。カテゴリーのところは少し迷うところがあったんですけど、曹さんと話して移籍を即決しました」