「相手がどうこうというよりも、自分がどれだけできるか」
無意識のうちにスライディングを繰り出していた。シュートすら打たせてなるものか。先制されかねない最大のピンチを、横浜F・マリノスひと筋で16年目を迎えた33歳のベテラン、DF栗原勇蔵が救った。
FC東京のホーム、味の素スタジアムに乗り込んだ18日のJ1第15節。両チームともに無得点で迎えた前半終了間際に、GK林彰洋から4本のパスをつないだFC東京のカウンターが発動される。
MF中島翔哉のスルーパスに反応したのは昨シーズンの得点王、元ナイジェリア代表のFWピーター・ウタカ。トップスピードに乗って、ペナルティーエリア内へ侵入してきた直後だった。
「これまでにも対戦したことがあるし、上手さも強さも兼ね備えていることがわかっていたので。足を振らせたらやられる確率も高くなる。とにかく、できるだけ体を寄せようと」
狙いを定めたのは、ウタカの足元からわずかにボールが離れた刹那。必死に追走してきた栗原が右側から回り込むようにスライディングを仕掛け、必死に伸ばした右足でボールをかきだした。
ひとつ付け加えれば、スライディングする直前に栗原は体をウタカにヒットさせていた。スピードを殺され、バランスをも崩されたウタカは強引な突進をあきらめ、味方へのパスに切り替える。
もうひとつ見逃せないのが、雨で濡れたピッチに転がりながらも、栗原がウタカの前方をふさいでいたことだ。パスを受けたFW大久保嘉人のシュートは左ポストをかすめ、マリノスは九死に一生を得た。
「相手がどうこうというよりも、自分がどれだけできるか、ということのほうが課題だった。久々だったので味方との距離感や連携をちょっとずつ整えていく感じだったけど。時間がたつにつれて、だんだんと落ち着いてやれるようになったかな。
まあ変に気負ってもしかたないし、とにかく普段通りにプレーして、結果もついてきたのでよかったですよ。試合に勝つことが何よりも大事ですけど、ディフェンダーにとっては完封勝利がその次に嬉しいので。その意味では、最高ですね」