無名の27歳が突然浴びたスポットライト
申し訳ないと心のなかで頭を下げながら、加藤恒平はベッドで横になることを選択している。千葉県内で行われている海外組だけによる日本代表合宿は、2日目の5月29日からは二部練習が組まれている。
午前、午後ともに約1時間半。午前中はランニングを中心にたっぷりと体をいじめ、午後もフィジカルトレーニングがメインで進められ、途中からようやくボールを使ったメニューが加わってくる。
「自由な時間はあるんですけど、昼寝をするとか、夜も夕食を食べ終わるとなんやかんやで9時を過ぎるので。毎日の練習が厳しいので、翌日に備えてゆっくり休むようにしています」
日本人には馴染みの薄い、ブルガリア1部リーグのPFCベロエ・スタラ・ザゴラでボランチを務める無名の27歳が、それまではおよそ縁のなかった眩いスポットライトを浴びたのは25日だった。
シリアとのキリンチャレンジカップ2017(6月7日・味の素スタジアム)、イラク代表とのワールドカップ・アジア最終予選(同13日・テヘラン)に臨む日本代表メンバーに大抜擢された。
都内で記者会見に臨んだ日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、「ほぼ1年をかけて追跡してきた」と強調しながら加藤のプレースタイルを説明したことで、注目度はさらに高まった。
「スタッフが4回ほど現地へ行って彼を見ている。ボールを奪う人という役割だ。少し(山口)蛍に似ているが、しっかり組み立てることもできる。次のプレーの予測とアグレッシブさのレベルが高い選手だ」
発表されたときは機上の人だった加藤は、一夜明けて羽田空港に降り立つとシンデレラボーイになっていた。スマホにはそれこそ数え切れないほどのLINEの祝福メッセージが届いていた。
「実はまだ返し切れていないんです。やっぱり体が疲れているので。まずはコンディションを優先させて、ちょっとずつ返信していければいいなと」
一通ずつ、感謝の思いを込めて返したい。それでもいまは、生き残りをかけた日々に万全の状態で臨みたい。加藤の律儀な性格が、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる姿からも伝わってくる。