チームの歯車として、葛藤の先にある成長
清水エスパルスとの静岡ダービーを3-1で制した後なのに、中村俊輔はさほど満足そうには見えなかった。前半の2ゴールは自らのFKから、後半の3点目も狙いすましたパスから決定機をセットアップ、その左足が叩き出した勝利にもかかわらずだ。
「化学反応がね、起こらないんですよ」
このゲームで、中村のポジションは右サイドに固定されていた。いつもならDFのすぐ側までボールを預かりに下がり、そうかと思えばサイドで起点になり、さらに最後の仕上げをすべくゴール近くへ入っていく…清水戦ではそんな自由な動きがほとんどなかった。禁じられたわけではない。右のポジションを言い渡されたことで、流行の言葉なら「忖度」したのだ。
「キャンプのときからやってきたんだけどね」
中村の言う「化学反応」とは、ポジションをズラすことで起きるポジティブな変化である。中村が自らのポジションを動かすことで、味方は空いたスペースへ移動し、さらにまた移動が生じる。そうした少しずつ起きるフィールド上のズレ、変化を利用して攻撃を作り上げるつもりだった。ところが、期待したほどの効果がない。
横浜F・マリノスのときにも、これがいつも上手くいっていたわけではない。中村が下がればビルドアップはスムーズに流れるが、ゴール近くで仕上げをする人がいなくなる。逆に中村が前で待つとボールが来ない…たぶん「中村俊輔」が2人いれば万事上手く回るのだろうが、生憎そんなプレーヤーはなかなかいないのだ。