「パス成功率」「スプリント数」。単体では意味がないデータ
そして分析の世界は、次のステップに進みつつある。
「データの見える化」、である。
第1回のコラムで触れたように、今ではある試合の翌日に「昨日のパス成功率は何%だった」と伝えるだけでは、選手側に響くアプローチをするのは難しい。決して「パス成功率」という概念が古くなったわけではない。
ただそういった数字は、UEFA公式HPやブンデスリーガ公式HPなどで誰もが確認できる。その選手がデータに興味がある、なしの問題ではない。“ありふれたデータ”を目の前にそのまま示されても、そこから何をどうしたらいいのか、選手側も困惑するだけだ。
パス成功率、走行距離、スプリントの本数…といったデータについて、プロゾーンのアジア部門を担当する浜野裕樹氏によれば「導入としては今も大事」なのだという。
「そういったデータに加えて、試合はその時どんな状況で、自分のポジションがどこで、どこに向かって走って、という追加の情報が入ってこないと、スプリント何十本、だけでは意味がないと思います」
“ありふれたデータ”は、きっかけに過ぎない。
「試合の翌日、ある選手に『昨日スプリント10本だったぞ』と伝えても『あ、そうですか』で終わっちゃうと思うんです。でも例えば、指導者がその選手を褒めようとする場合、『89分、自分の陣地に戻る時、あれだけスプリントできていたよ。それは良いね』というコミュニケーションが生まれるんですよね」
つまり「データの見える化」とは、「データに意味を持たせる」ということである。
また逆に、叱る場合にも「コミュニケーションが生まれる」。ある試合で監督から「前半は飛ばしていこう」という指示が出ていたとする。そして試合後に「『飛ばそう』と伝えていたが、ボールを獲った後の前方へのスプリント、獲られた後の後方へのスプリント、全然できていなかったぞ」というアプローチも可能になってくる。