スペインと日本で異なる「技術」の定義
まずは私が指導者ライセンスを取得し、指導現場に立っているスペインにおける「技術」の考え方から説明したいと思います。サッカーの進化に伴い定義も少しずつ変化していますが、スペインでは「技術の背景には必ず戦術的要素が含まれている」と認識されています。
目に見える部分である「ボール扱い」はスペイン語で「Ejeccion(エヘクシオン)」と呼ばれ、それはあくまで「実行」の部分です。スペインでは戦術的要素の伴わないボール扱いの「実行」はあくまでエヘクシオンで「ボール扱い」と「技術」は別物です。
目に見えない(頭・心)の認識・分析・決断を含めて「PAD+E」のプレープロセスがあり、その最後に現れる部分が「技術」と定義されています。スペインの育成年代での技術習得は「実戦で使えることが最終目的」とされていますので、相手がいる実戦的状況下でのトレーニングが一般的です。
もちろん、アナリティックなドリル練習も必要ですが、「それだけで技術は身につかない」と考えられていますので、必ず試合に近いシチュエーションを作り、実戦の中で使える技術を習得させています。
スペインに来てコーチングスクールでPAD+Eのプロセスを理論として学んで以降、私が技術指導の中で注意するようになったのが体の向きです。体の向きがいい選手というのはプレーできる範囲、見えている視野が広くなりますので、ピッチ上で収集する情報の量が多く、適切な判断ができるようになります。
すると判断のミスが減りますので、実行部分でのミスも減ります。欧州トップレベルのサッカーを見ていても、現代サッカーにおける「ミス」とはボール扱いの実行部分ではなく、判断ミスによるものがほとんどです。裏を返すと、単なるボール扱いの実行部分で頻繁にミスを犯してしまうような選手は、代表はおろか、プロにもなれません。
皮肉になってしまいますが、相手(敵)がいない中でプレーをさせると日本人は世界トップレベルだと思います。では、なぜ世界で勝てないかとなった時にやはりボールを受ける前の準備、状況判断といった目に見えないPADの部分を育成年代できちんと指導されておらず、「戦術メモリー(戦術的記憶の積み重ね)」が不足しているからだと考えられます。