「お互いに知り尽くしている分、やりやすくはなかった」
「相手のことはちょっと、コメントしづらいですね」
90分の激闘を終えた前田遼一に向けられた、ジュビロ磐田と対戦してみての印象は?という問いに対して、彼は少しの沈黙の後にこう答えた。サックスブルーのユニフォームを着て15年間戦い続け、歓喜も絶望も体験した。大切なクラブであることは疑いようもないが、彼は今、FC東京の選手である。チームを勝利に導けなかったことが何より悔しく、その事実を真摯に受け止めた。
試合を通して、相手のタイトなマークに遭った。対峙するディフェンダーは若手時代から知る大井健太郎と森下俊。「お互いに知り尽くしている分、やりやすくはなかった」と前田が振り返ったように、自由に動ける場面は決して多くなかった。
「クロスに合わせるのが上手いし、足は遅いけど裏への抜け出しとか動き方がすごく上手い。相手のディフェンスの前に入ってヘディングするのも。そういうところを気をつけたり、ドリブルからのシュートともタイミングが上手。止まらないから守備にもつきにくい」
大井は、先輩の特徴を熟知しているからこそ警戒を一層強くし、試合中は森下とともに常に監視した。
「止まらないから守備にもつきにくい」という意味では29分、FC東京は敵陣右サイドで素早いスローインでリスタートした。そこに抜け目なく走り込んだ前田がシュートを放っている。
これは大きく枠を外れ、大井も即座に間合いを詰めていたこともあり、どちらにしてもネットが揺れることはなかったかもしれない。だが、空いたスペースを見つけて侵入するという一連の動作に無駄はなく、磐田に一瞬たりとも気が抜けないことを示すのに十分なものだった。