F・トーレスに注がれる比類なき愛情
「自分のチームが勝利したとき以上の喜びだよ」
ミゲル・アンヘル・ヒル・マリンが携帯電話で受け取った数百のメッセージの中でも、フェルナンド・トーレスの記したそれこそが最も誇らしげだった。メッセージが送られたのは2012年5月10日。アトレティコがブカレストでアスレティック・ビルバオを下し、ヨーロッパリーグ制覇を果たした直後のことだ。
アトレティコCEOと選手はかねてより親しい関係にあったが、祝福の文面は少し奇妙にも映った。トーレスが当時所属していたクラブはチェルシーであり、9日後にチャンピオンズリーグ決勝のバイエルン・ミュンヘン戦が控えていたのだから。バイエルンを下せば、UEFAスーパーカップで古巣と対戦するにもかかわらず、彼はそう書き綴ったのだった。
エル・ニーニョ(F・トーレスの愛称、子供の意。日本では神の子とも訳されるが、スペインでは若くしてデビューした選手によく付けられる愛称であり、子供という意味合いが強い)は、チェルシーよりもアトレティコの勝利を喜んだ。
もちろん、それはプライベートのことであり、公の場でそう言明していたならば、自クラブのファンから反感を買っただろう。もし、青のユニフォームの信奉者がこの文章を読んでいるとしたら、一記者の戯言と受け止めてもらってかまわない。
しかしフットボールや愛において、感じられないことを理解する術はないのである。トーレスは過去にアトレティコへの愛を誓い、現在もアトレティコに忠誠を尽くし、未来にもアトレティコを愛するのだ。
無論、そのように称せる人間は、トーレス以外にも多く存在する。が、数週間前に実現した、エル・ニーニョの7年半ぶりとなるアトレティコ帰還で、彼が唯一無二の存在であることが証明されてしまった。トーレスはアトレティコに愛を誓った人間だが、アトレティコもまたトーレスに愛を誓ったクラブなのである。
その愛情の重さをはかれるものは、私の知る限り、どんな店でも売ってはいない。だが2015年1月4日、アトレティコの本拠地ビセンテ・カルデロンで起こったことが、まごうことなきはかりとなるだろう。