「骨まで見えていた」負傷からの早期復帰
黒い帽子をかぶり、さらにつばの部分を上へ折り曲げる。いつものスタイルで5月8日の柏レイソル戦後の取材エリアに姿を現した奈良竜樹の体には、激戦の代償ともいえる勲章が刻まれていた。
首の右側の部分に残っている、痛々しい引っかき傷。それも1ヶ所ではなく数ヶ所に。おそらくはゴール前におけるコンタクトプレーで、相手選手の爪にかきむしられた痕なのだろう。
「首に何かありますか?」
傷の存在を聞かれた奈良はしかし、まったく意に介していない。それどころか、すべて無失点で5連勝と快進撃を続けていたレイソルを、敵地・日立柏サッカー場で撃破した喜びを漂わせながら笑顔を浮かべた。
「いやぁ、わからないです。多分、今日の試合でやったんじゃないですか」
威風堂々としたたたずまい。180cm、77kgの体からは、たくましさと雄々しさがプンプンとまき散らされている。当然ながら、右足のすねに負った裂傷に関しても泰然自若としている。
浦和レッズに0対1で屈し、今シーズン初黒星を喫して首位から陥落した4月24日のファーストステージ第8節。後半終了間際に、奈良はまさかのアクシデントに見舞われてしまう。
自陣のゴール前で、レッズのDF森脇良太と激しく接触。なかなか起き上がることのできない奈良の周囲に集まったチームメイトたちが、ベンチへ試合続行不可能のサインを送る。
そのなかの一人、FW大久保嘉人が試合後に発した言葉に、メディアは騒然となった。
「骨まで見えていた」
試合後の公式会見。フロンターレの風間八宏監督も深刻な表情を浮かべながら、「完治までどのくらいかかるかわからない」と、奈良が負ったけがが決して軽傷で済まないと示唆していた。
8月に開幕する4年に一度の祭典、リオデジャネイロ五輪への出場も危ないのではないか。誰もが早期復帰を危惧したなかで、奈良は5日後に行われたガンバ大阪戦で先発メンバーに平然と名前を連ねた。