本田に託したミハイロビッチ監督の一手
今から6年前のことである。最下位に沈んでいたカターニアを立て直すために呼ばれたシニシャ・ミハイロビッチ監督は、戦術を成立させるためにある一手を考えた。アルゼンチン人FWのアドリアン・リッキューティをインサイドMFに下げるというものだった。
ミハイロビッチは守備時に4-1-4-1となる4-3-3のシステムを取っていたが、攻守をつなぐインサイドMFが不足しており、前線と中盤は分断気味だった。そこに小柄だが技術が高く、スペースに飛び出すセンスもあるリッキューティをコンバートしようと考えたのだ。
ただ当然のこと、言い渡された本人は戸惑いを隠せない。「中盤なんてやってことないですよ」と監督に言ったところ、こう返される。「この要求を呑んでくれなければ、お前にポジションは用意できない」。それは事実だった。3トップはそれぞれCFとウイングにあった選手が選択され、2トップの一角かトップ下を特性をするリッキューティにとっては戦術上居場所がなかった。
結局彼はコンバートを受諾し、攻守の繋ぎ役として活躍する。するとチームのバランスも一気に向上し、カターニアはあっという間に降格圏を脱出。そしてホームではインテルやフィオレンティーナを破り、アウェーでもミランからドローをもぎ取るなどの活躍を見せ(リッキューティはその試合でゴールを挙げる)、カターニアは勝ち点記録を更新し残留へと突っ走った。
今のミランでの本田圭佑を見ていると、当時のことを思いだす。本来のトップ下から落とされ、4-4-2の右サイドハーフでのポジション争いを余儀なくされるが、その場所で監督の戦術的要求を理解し実行した。そして5日、サッスオーロ戦に向けての前日会見では、指揮官の口からこんな言葉も飛び出したのだ。
「とりわけミランの10番ならゴールを決めてもらわないといけないが、単なる“10番”としての役割以上に複雑な仕事を彼はやってくれている。我々のバランサーとなってくれているし、この戦術システムの成立に大きな貢献をしてくれている」