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Jリーグ 12年前

ガンバ大阪・遠藤保仁の「戦術眼」(後編)

『天才プレーメーカーの真価を読み解く』
ガンバ大阪や日本代表でチームを指揮する遠藤保仁。彼の卓越したプレービジョンとインテリジェンスを考察していく。

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

【前編はこちらから】 | 【フットボールサミット第6回】掲載


遠藤保仁【写真:松岡健三郎】

シンプルにプレーすることが一番難しい

 サッカーはシンプルにプレーすることが、一番難しいといわれている。

 ただ、遠藤のような選手にとって、シンプルにプレーするのは文字どおりシンプルなことでしかない。解は出ることになっているからだ。

 その前提になっているのが止める・蹴るの技術だが、どこまで情報を取り込めるかがカギになる。

 トヨタカップで、ユベントスのメンバーとしてミッシェル・プラティニが来日した。当時、世界最高のプレーメーカーだった。プラティニの一挙手一投足をとらえようと、中継局は異例の台数のプラティニ専用カメラを用意している。プラティニがサイドからのFKで、ゴール前にクロスを送り込もうとしている様子もアップでとらえていた。

 ボールへ助走を始めたプラティニは、その途中でチラリとだが、全然関係のない方向を見た。そこを見ても、おそらく何もない場所である。チラリと見ただけで、そのままゴール前へ蹴りこんでいるから、プラティニが何を見たかったのかはわからなかった。ただ、ゴール前とボールに集中すればいいはずの状況で、まったく関係のない場所に視線を送っていた。副審でも見たのか、それとも自分の背後から味方が上がってくるかもしれないと感じたのか。それともただの癖のようなものなのか。わからないが、妙に凄みを感じた一瞬だった。

 チャビがよく"頭を振る"のは知られている。ボールが来る前に左右を見て、来た瞬間にも見て、コントロールしながらまた見る。もう十分見ただろう、まだ見たいのか、と思えるぐらい見ている。情報収集にこれほどどん欲な選手も珍しい。FKで"よそ見"していたプラティニもそうだが、日常生活でもあれぐらい見回していれば、道に落ちている小銭もずいぶん拾えるだろうと思えるぐらいだ。

 ジーコは広告看板の位置が変わるのを嫌っていたそうだ。フラメンゴ時代には、ゴール裏に立っているカメラマンの位置も同じにしていた。瞬間的に位置を確認するときの目印にするためだ。おかげで、目印にされたカメラマンはいつも赤いシャツを着て、同じ場所に立っていなければならなかったそうだ。「80パーセントぐらい通る確信がなければ、そのパスは出さない」

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