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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(後編)

『常に攻めて行くことこそがイングランドフットボールの真髄である』
11-12シーズン、プレミアリーグを制したマンチェスター・シティ。09年より監督に就任し、プレミア屈指のタレント集団を着実にステップアップさせたロベルト・マンチーニの手腕とはいかなるものか。自身の哲学とともに、プレミアリーグの真髄についてじっくりと話を聞いた。翻訳:宮崎隆司

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

【前編はこちらから】 | 【欧州サッカー批評6】掲載

オフェンスと認識されるプレミアのサイドバック

――技術・戦術的な見地から語るとすれば?

「『先進性ではイタリアに劣る』と、確かに数年前であれば言えたのかもしれない。でも今はもう差はない。もちろん、ここに至る過程で少なくはない外国人監督たち――ポルトガルのモウリーニョやフランスのベンゲル、そして我々イタリア人の複数が一定の役割を果たしたとは言えるのだろが、それはあくまでもプレミアの進化全体からすれば僅かな比率を占めるに過ぎないと思うんだよ。

 彼らは彼らなりに努力を重ねて今を築いてみせた。いわゆる『キック&ラッシュ』なるこの国特有と言われたスタイルはもはや皆無だしね。つまり、敢えてそれを言葉にすれば、『イタリアと同質で同レベルの戦術があり、だがイタリアほどそれに固執はしない』となるだろうか。

 要は、ここイングランドで“戦術至上主義”は一定のレベルで存在はするものの、しかしそれが決して主流ではない、と。おそらくはほぼすべてと言えるだろう、プレミアの多くのチームが、敵の攻撃を破壊することではなく、まずは自分たちのサッカーの実践を最大の目的にピッチへ向かう。サッカーに限らずあらゆる競技で『積極性と消極性』は表裏一体の関係にあるんだが、ここイングランドのサッカーでは前者が比率で明らかに上回っている。

 ひとつ具体例をあげれば、昨季の最終節(対QPR)。我々のホームでの試合。勝てばスクデットが決まるという一戦だったんだが、そこに乗り込んできた『下位クラブ』の彼らは、しかし決して勝負を最初から諦めるような真似はしなかった。むしろ果敢に攻めてきては我々から2ゴールを奪っている。

 幸運にも最後ギリギリで勝てたとはいえ、確かなのは、あれが他の国であれば、それこそイタリアの下位クラブであれば終始一貫、守ることだけに専念していたはずだということ。そのスピリットを伝統の柱とするのが、ここイングランドのフットボール。僕は、これ以上ない敬意を彼らに払っている」

――より具体的に「違い」を言葉にするとすれば?

「確かにイタリアのサッカーは、守備組織におけるメカニズムの精度では他の一歩先を行く。一方で、イングランドにはイタリアにはない『勇気』がある。抽象的だが、これが最も大きな違いだと僕は思う。その象徴が、両サイドバックに求められる資質ではないのか。プレミアにおけるSBは『オフェンスの選手』と解釈されるのが基本だ。ガレス・ベイルがその典型であるように。しかし、誰もが知る通り、イタリアでの概念は違う」

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