5月中旬の試合でも気温は0度
ここは欧州の「北の果て」。青空に綿のような雲が浮かぶ5月中旬というのに、スタジアムの電光掲示板は気温0度を示している。風速10メートル超の海風が止むことなく吹きつけ、体感気温はマイナス10度以下。
凍てつく寒さで私の手足はすっかり痺れてしまった。アイスランド人もニット帽やフードは必須のようだが、女性や家族連れも多く、これでも春のサッカー日和なのだろう。
首都レイキャビクから50キロ離れたケプラヴィークは、同国唯一の国際空港がある人口約8000人の街。同名のクラブは、リーグとカップを4度ずつ制覇した中堅だ。本拠地「ネットヴォトルリン」のピッチ上で選手がウォーミングアップしている頃、スタンドではバケツ片手の少年たちが雑巾でせっせと椅子の汚れを拭き取り始めた。
入口から続く小屋では、婦人方が暖を取るためのコーヒーを準備中。奇異な溶岩台地を背後にした港町に「牧歌的」という言葉は似つかわしくないかもしれないが、紛れもなくアットホームな空気が流れている。千席余りのメインスタンドは地元の人々と敵サポーターで7割が埋め尽くされた。もちろん、両者を分け隔てる警官隊や警備員は存在しない。
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