2013年、クラマー氏の哲学が体現された栃木SC
2013年シーズンのJリーグ、それもJ2の舞台で、半世紀以上も前に日本サッカー界へ伝えられたクラマーさんの哲学が体現されていたことをご存じだろうか。
残り10試合となった段階で14位に低迷していた栃木SCは、松田浩監督と南昭吾強化部長を解任。後任の監督に松本育夫取締役、強化部長に上野佳昭シニアアドバイザーを就任させる荒療治に打って出た。
当時71歳の松本さんはJリーグ史上における最高齢監督となり、同じく73歳だった上野強化部長との合計年齢が144歳に達することが大きな話題を呼んだ。
しかし、それ以上に注目されるべきは新監督のもとで7勝2分け1敗の成績を残し、最終的には9位でフィニッシュした軌跡となるだろう。白星のなかには優勝したガンバ大阪と真っ向勝負を演じ、激しい闘志と底知れぬスタミナで圧倒。4対2でねじ伏せた快勝も含まれていた。
鮮やかなV字回復を遂げた理由を、松本さんは独特の熱い口調でこう説明してくれたことがある。
「クラマーさんが僕たちに教えてくれた基本を徹底しただけなんですよ。基本とは何かと言えば、選手の心構え、闘うために必要な条件、そして勝つために必要な戦術ですよ」
選手の心構えとは、要は「プロとは何ぞやということです」と松本さんは続けた。
「感謝の気持ちをもたない選手はダメです。給料はどこからもらっているのか。自分が一番好きな道で仕事ができていることに24時間感謝しろということ。そう考えれば練習で力を抜くことも、サボることもできない。その姿勢をそのまま試合へもっていけということ」